首都直下地震に巨大台風 大都市を襲う災害、あなたが直面したら
地震は日本全国どこでも、さまざまな形で起きる。11年前の東日本大震災は、大津波を伴い東北・三陸沿岸に甚大な被害をもたらした。1995年の阪神・淡路大震災では、都市部で大規模な建物の倒壊や火災が広がった。
「いつ起きてもおかしくない」と言われる、首都直下地震。東京都の現状での想定によると、都内での死者は最大で約9700人、避難者は発災翌日のピーク時で約339万人、帰宅困難者は約517万人という。住民、通勤・通学者が都市で大型の災害に直面したら――。
「近所付き合い」は自分から
都市部で被災した場合、人口の多さや帰宅困難者の大量発生、生活インフラの破たんといった観点から、「逃げ場がない」「帰れない」「暮らせない」という3点で問題を考えてみたい。兵庫県立大学大学院・減災復興政策研究科の阪本真由美教授に、取材した。(聞き手はJ-CASTトレンド・荻 仁)
――人口密集地では、避難所が設置されても満杯になりやすく、近年では在宅避難が求められます。自宅以外に「逃げ場がない」状態です。
阪本:都市を襲った阪神・淡路大震災当時と比べて今は、マンションの高層化、生活での電気への依存が進んでいます。オール電化の住宅だと、困るのが断水。各部屋に水を送るポンプが止まるためです。すると、トイレが使えません。無理に排水すると、高層階から低層階に汚水が漏れ出す恐れがあります。
エレベーターもストップします。2018年6月の大阪北部地震では、約6万3000台が運転を休止し、うち346台で人が閉じ込められるケースがありました。復旧させるには1台ずつ管理会社が点検するため、時間がかかります。マンションでは、高層階の住民は大変な目にあります。
内閣府防災のユーチューブ「首都直下地震」より
――高層マンションでの在宅避難は、近所付き合いがないと孤立する恐れがあります。賃貸住宅で自分も周りも一人暮らし、日中は仕事で家にいないとなれば、顔を合わせる機会がありません。災害が起きても、親しく助け合える関係になるのは難しそうです。
阪本:「近所付き合いは大事」と誰もが言います。でも、待っていてもつながりはできません。自分からマンションの管理組合に参加する、地域の行事に顔を出すといった積極性が大事です。
隣近所だけでなく、学校や職場での人間関係も強くしておきたい。私は阪神・淡路大震災のとき神戸大の学生でした。当時、下宿していた友人を助けにいったのは大学の同級生や先輩だと聞きます。友人や仲間が、困ったときに手を差し伸べてくれたのです。
家族が離れている時間の対策を話し合う
内閣府防災のユーチューブ「首都直下地震」より
――都市部の大規模災害では「帰れない」、つまり帰宅困難者の発生が懸念されます。
阪本:これは、帰ろうとするから起きる問題。急いで帰らないことです。企業は従業員のために、必要な物資を備蓄しておくとよいでしょう。
大阪北部地震の際も、大勢の人が帰宅しようとしました。しかし大地震の際は、公共交通機関はストップし、道路は災害対応車両が優先されるため、容易に移動できません。東京の場合は、移動中や屋外にいた人のために一時滞在施設の用意が進められています。東京駅や名古屋駅といったターミナル駅周辺では、企業や施設がフロアを開放して帰宅困難者の待機場所とする対策が進んでいます。
――東日本大震災では、自宅に幼い子や家族がいて心配だと、勤務先から徒歩で数時間かけて帰宅した事例が多くありました。学校に残っていた子どもも、大勢いました。こうなると、親は無理してでも帰ろうという意識が働きそうです。どうすればよいでしょう。
阪本:家族が離れている時間帯に発災した場合の対応策を、親子で普段から話し合ってください。子どもが通う学校の防災体制を確認しておくのも重要です。普段からしっかり防災訓練をしているか、災害時は学校に一時滞在させてもらえるのか、親は知っておくべきです。
それでも下校途中や塾に通っている時間に被災するかもしれません。だからこそ、繰り返しになりますが事前に家族で一緒に対策を考えおく必要があるのです。
ほかに、こういった取り組みがあります。広島市の「A.CITY」は建物が18棟、住民約3000人の大規模なマンション群です。自治会では防災に力を入れ、各種行事や住民同士の交流の際に防災にまつわるクイズの出題や、防災ブースを設置するといった工夫をしています。オリジナルの防災マニュアルも、作成しました。こうした活動が評価され、総務省消防庁主催の2017年度「防災まちづくり大賞」で、自治会は「日本防火・防災協会長賞」を受賞しました。
情報は避難所に集まる
内閣府防災のユーチューブ「首都直下地震」より
――大規模災害の場合、避難生活にはさまざまな不便が生じます。長引けば「暮らせない」と思うほどつらくなるでしょう。都市部では人口が多く、必要な物資が手に入りにくくなるのが心配です。
阪本:そのために、3日~1週間分の備蓄が必要です。食料や水、懐中電灯、携帯電話の充電用バッテリーは必需品です。
トイレが使えなくなるのに備えて、100円ショップで買える凝固剤は有用。1日5回使用すると見積もると、仮に4人家族なら1日20個、1週間で140個とかなりの数が必要になります。また、固めた後に捨てる際は、ニオイ対策としてふた付きのゴミ箱や、ペットのフンを始末する「におわない袋」があると便利です。
水は飲料水より生活用水を多く使います。私の場合、日常生活では数個の小型ポリタンクに水を入れてためておき、ベランダに置いて花の水やりに利用しています。
――衣食住に加えて、情報が必須です。現代ではインターネットや携帯電話が使えなくなると、何もできなくなるのが怖いですね。
阪本:緊急時にモノと情報が最も集まるのは、避難所です。在宅避難している人も、避難所を訪れて情報収集するとよいでしょう。
また都市部では、避難所に行かない人たちを支援する取り組みが行われています。
東京都練馬区は、阪神・淡路大震災の教訓から、区立の小中学校98校を、避難所と防災拠点機能の両方を持つ「避難拠点」と位置づけ、運営しています。避難生活を送る場としての役割をはじめ、水や食料の配給、復旧・復興関連情報の提供、簡単な手当てや健康相談、心のケア、仮設住宅やボランティアのあっせん、生活再建に関する相談といった支援活動の拠点となります。
今後は大型マンション単位で、こうした拠点の役割が担える体制づくりが望まれます。
(おことわり)「防災特集2021」は今回で終了します。ありがとうございました。