ワリエワ「絶望」のあだ名ウソだった 日本のマスコミは連呼していたが

   北京冬季五輪のフィギュアスケート女子で、金メダル確実と見られていたロシア・オリンピック委員会(ROC)のカミラ・ワリエワ選手は、4位に終わった。大会中に発覚したドーピング疑惑が影響したようだ。

   ニックネームは「絶望」と言われ、日本のメディアでは再三使われてきた。強すぎてライバルたちを絶望させる、という意味合いだ。ところが、本国では誰も知らないという。一体どういうことなのだろうか。

北京五輪フィギュア女子FSのワリエワ選手(写真:UPI/アフロ)
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時事通信が検証

「『絶望』の異名裏切らぬ演技、ワリエワが鮮烈五輪デビュー」(2022年2月6日、産経新聞)
「地元・ロシアのテレビ局が、ライバルにとって『絶望』と異名をつけるほど、圧倒的な存在だ」(2月7日、スポーツ報知)

   日本のメディアでは、ワリエワと言えば「絶望」が代名詞だ。テレビ朝日は21年11月26日、「フィギュア大国ロシアが生んだ最高傑作、ワリエワ。その異名は"絶望"、他の選手が『絶対に勝てない』と意気消沈」という見出しで、ワリエワがずば抜けた存在であることを解説している。

   朝日新聞は22年2月11日、「ワリエワが『絶望』と呼ばれた理由 数々の名選手育てたコーチに師事」という記事を掲載。「まだシニアデビュー1年目ながら、あまりの実力の高さから『彼女に勝つことを誰もがあきらめる』という意味合いで、『絶望』という異名がある」と言い切っている。

   ところが時事通信は18日、「『絶望』は日本ファン発祥? 『意図せぬ使われ方』困惑 ワリエワ選手、地元では『カミ』」という記事を配信した。

   ワリエワ選手は、「ライバルたちを諦めの心境に突き落とす『絶望』の異名を持つ、と一部メディアで紹介されている。ただ、由来をたどると、約3年前の日本のフィギュアファンのつぶやきにたどり着く」と報じている。

「ロシアで『絶望』と呼ぶ人はいない。唯一の愛称は『カミ』(カミラの略称)」

   時事通信の取材に、ロシアメディア「スポーツボックス・ル」(モスクワ)のアンドレイ・イワノフ副編集長は、「『絶望』の異名は、格闘技の選手だね。女子フィギュア選手には似合わないな」と話している。

欧米メディアは別の呼び名

   時事通信は、このニックネームは、実は3年ほど前、日本のインターネット交流サイト(SNS)で生まれたものだということを突き止めている。投稿していた20代男性が、「僕も含め数人が言いだした」と明かしている。「ファンが想像した完璧な演技を何度も超えてくる期待感、高揚感を逆説的に表現していた」とのこと。現在使われている「ライバルを意気消沈させる」という意味合いではなかったようだ。

   この男性は、「もともとの意図と違う形で使われているので、これ以上広まってほしくない。選手のマイナスイメージにならないよう祈るばかり」とも語っている。

   米メディア「MarketWatch」は22年2月14日付(同16日更新)記事で、ワリエワ選手を特集。この中で、見出しのひとつに「彼女のあだ名は『ミス・パーフェクト』」と書いている。英紙「デイリーメール」(電子版)2月18日付記事では、「あだ名が『ミス・パーフェクト』のワリエワは」という記述が登場する。英紙「インディペンデント」(電子版)2月16日付記事中にも、同じく「ミス・パーフェクト」がニックネームとして使われていた。欧米メディアでは、こちらが主流とみられる。

坂本選手は冷静だった

   ワリエワ選手はドーピング疑惑の渦中にあり、現在のところ、真偽がはっきりしない話も含めて様々な情報が入り乱れている。もともとロシアがドーピングで糾弾された国であることや、直近のウクライナ情勢を巡る緊張の高まりなども影響している。

   日本のメディアでは、「絶望」というニックネームをロシア発として紹介してきた。それが「日本発」で、しかも、もともとの意味合いが異なるとなると、ワリエワに関する真実の報道が強く求められているだけに今後は修正する必要がありそうだ。

   ドーピング疑惑で世界のメディアがヒートする中で、15日のショートプログラム(SP)で3位発進の坂本花織選手(シスメックス)は冷静だった。記者たちのこの問題に関する質問に対し、「騒ぎになっているのは知っているが、事情は何も分からないので、私が言えることは何もない」。そして、「自分がベストを尽くせるかを最優先したい。今は集中するだけ」と語っていた。

   坂本選手はその言葉通り、冷静さを保ち続け、フリーで自己ベストの153・29点を出し、合計233・13点をマーク、銅メダルを獲得した。

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