アサリの9割は外国産だった 「産地偽装」で分かった食の現実
日本に輸入された中国産のアサリが「熊本産」として出回っていたことが発覚、スーパーなどからアサリが消えるなど衝撃を広げている。
食品の生産や流通の過程で繰り返される「産地偽装」。信用回復にはしばらく時間がかかりそうだ。
「報道特集」がスクープ
この問題は2022年1月22日、JNNが「報道特集」で大々的に報じて明らかになった。3年間の追跡取材に基づいたというショッキングな内容だった。
食品表示法によると、海外原産の水産物でも、日本の海に運び入れて成育した期間(蓄養期間)が原産国より長いものは国産と表示できる。ところが、熊本では、国内での蓄養期間は1週間程度、もしくは全くゼロのアサリを、書類上は中国で育った期間よりも有明海などの干潟で蓄養した期間の方が長くなるように見せかけ、「熊本産」として出荷していたという。
内部告発した元業者が、顔出しで取材に応じ、熊本産とされているアサリは「ほぼ100%」が中国産だと証言していた。
農林水産省は2月1日、アサリのDNA調査などをもとに、「熊本産」として販売されるアサリの97%に「外国産が混入している可能性が高い」と発表した
有明海などに干潟が広がる熊本県は、かつて全国でも有数のアサリの産地だった。1977年には6万5732トンを漁獲するなど、一時は日本一の漁獲を誇っていたが、近年は深刻な不漁が続いて出荷量が激減。こうした「偽装」が行われるようになったようだ。
保管技術の進歩で偽装が容易に
農水産物をめぐる偽装は、これまでも繰り返されている。新潟産ではないのに「新潟コシヒカリ」として売られることもあるコメ。中国産の梅が国産に化ける。牛肉の世界では、外国産の牛肉が国産になったり、銘柄牛ではない肉が「但馬牛」などのブランド牛に様変わりしたり。焼き肉店で、生では食べられない肉が売られて、死者が出たこともある。ブロイラーと地鶏、養殖魚と天然物の違いなどは、素人には見分けにくい。
ウェブメディア「地域百貨」の編集部は2018年、偽装が横行する背景を以下のように解説している。
「なぜ食品会社は法律に違反してまで偽装をするのでしょうか。それは、どの食品偽装事件であっても企業が利益を求めていることが原因にあります。また、食品を購入する際に品質が見た目と表示だけでは詳しく分からないということも理由の一つでしょう」
「見た目から品質を見極めることを難しくしている要因の一つが保管技術の進歩です。外国など遠い場所から輸入した食材であっても、保管技術が高まったことにより見た目・味ともに大きく損なうことなく消費者に提供することが容易になったのです」
科学技術の進歩が、皮肉なことに「偽装」をやりやすくしているのだという。
店頭の8割が「熊本産」
熊本県は対応に追われている。西日本新聞によると、記者会見した蒲島郁夫知事は終始厳しい表情で、県内の漁協が約2か月間、出荷を緊急停止すると発表した。
熊本県は近年、水害で大きな被害を受け、全国ら支援されてきた。県には「災害で支援したのに裏切られた」という厳しい声も届いているという。
岩田屋本店(福岡市)では2月1日、「正確な産地が特定できない」(広報担当者)として店頭からアサリが姿を消した。イオン九州(同)は順次、他の産地に切り替える方針。鶴屋百貨店(熊本市)は偽装の疑いが報道されて以降、アサリ全般の取り扱いを停止したという。
農林水産省が2021年10~12月に全国のスーパーなどの実態調査したところ、熊本県産アサリが全体の79.2%を占めていた。推計2485トン販売され、熊本県産の年間漁獲量(20年は21トン)をはるかに上回っていた。
同省によると、国産アサリの漁獲量は減少傾向で、20年は4400 トン。これに対し輸入量は3万5370トン。流通しているアサリの9割近くを占める。ほぼ全てが中国産か韓国産。しかし実態調査では、店頭に並んでいた中国産はゼロ、韓国産は0.9%にとどまっていたという。
アサリは日本各地の貝塚からも見つかるなど、古くから最も身近な貝類だ。現在では、潮汁、酒蒸し、味噌汁や和え物、しぐれ煮のほか、スパゲティやクラムチャウダーなど幅広く使われている。消費者はこれから、食べているアサリはたぶん外国産、と思っていた方がよさそうだ。