「堂安を見たときは『うぉっ』て」 久保竜彦が示すスーパースターの条件
【連載】サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年
――森保一監督は、守備をオーガナイズする半面、攻撃は選手の自主性に任せている部分が多く感じます。久保さんはどのように感じていますか。
久保:う~ん......(代表は)結局、練習時間も少ないし、すり合わせする時間もない。(クラブよりも)個人と個人の繋がりになるというか...う~ん。自分の(代表)時代は、(小野)伸二、(小笠原)満男、(中村)俊輔とか(パサーとうまく)絡むことしか考えていなかったから、やっぱそういう(今指摘されたような)風になるんですかね。
でも、(代表の)コンビネーションで言ったら断然いまの選手たちの方がうまいし、レパートリーもいっぱいある。真ん中がちょっとあれですかね。大迫(勇也)がちょっと厳しくなって・・・最後(ペナルティーエリア内での勝負)は一番キツイから(大迫以外でも)難しいですけどね。
横パス増えてリズムは生まれない
――大迫選手の存在感が弱くなったのは、私も感じています。久保さんはどのあたりで厳しくなったなと感じましたか。
久保:最後の所の爆発の力が無くなってきた。やっぱり、31歳くらいになると(自分含め多くのFWは)パワーやキレが無くなってくる。でも大迫は、今までのスタイルを変えられそうな(技術のある)選手だから、また違った点の取り方を作っていけると思うんです。けど、時間はかかりますよね。
――森保ジャパンは横パスが多いように見えます。選手目線では、横パスが増える時とは。
久保:う~ん、やっぱりリズムを作ってくれるパスや回し方...伸二みたいな。(横パスが増える時はボールを)持って考えて、持って考えてってなりがちなんですよね。リズムは生まれないし、足も止まってしまう。ダイレクトで蹴れるようなパスを出してくれる選手がいると違いますよね。FWが「クサビ」に入った時に、そこに出すボールをダイレクトで入れてくれると、FWも受けやすい。DFのテンポもズレて、(FWが)狙われない。自分が選手だった時は、そう思っていました。
――ジーコジャパン時代、ダイレクトが少なくなったのはどんな時でしたか。
久保:「人」ですね。誰かが出場してない、それだけで変わります。「そこダイレクトで見てくれ」って言っても、見られない選手は見られないし。ダイレクトで入れる選手の前のパスを、気が利いたパスじゃないと、ダイレクトで蹴れないですよね。リズムを変えられるようなパスを配給する選手がいないと、結局、2タッチ以上の連続になってしまう。緩急がない。
――なるほど。ロシアW杯時の輝きを見せられない柴崎岳選手の起用に批判が起きていますが、もしかすると森保監督は柴崎のそういった部分に期待している部分もあるのかもしれません。
久保:(柴崎には)ひらめきありますからね。
主導権握られると最後苦しく
――よく「アジアと世界では戦い方が違う」と聞きます。それは、アジアは相手が引いてくる以外に違いはあるのでしょうか。
久保:W杯行ったことないからなぁ...。主導権を握るのと握られるの(が違うの)は、誰でも感じていると思うけど。
――サッカーなので、試合中に主導権は移り変わります。その中で日本は、アジアでは7握れるけれど、世界だと3程度しか握れないといった比重になるかと思います。主導権を取れないと、かなり変わりますか。
久保:苦しくなるんですよね、最後の所で。時間帯でも苦しくなるし。そこで、ちょっと頭ボヤけて、(立つ)ポジションをミスったり、トラップミスしたりが起きやすくなると思う。些細なことだと思うけど、頭が動かなくなるっていう。一瞬フワッてなったりとか、(選手には)あるんですよね。最後の何分かで、今言ったようなことが起こる。だからサッカーの試合時間の90分って、本当にうまく出来ていますよ(笑)。
――久保さんも出場した、イングランド代表のホームスタジアムに乗り込んだ親善試合では、基本的に相手が主導権を握っていました。ある程度、それは仕方がないというような話はあったのですか。
久保:話してますね。10分くらい経って、「(いつもと同じ試合運びは)難しい」となると、ポジションちょっと変えたり、(FWの)距離を(自陣寄りに)下げてみたり、全体の調整はやっていました。フク(福西崇史)、俊輔、満男は、そういうのを感じるのが早かったです。
――アジア予選では相手に主導権を渡すって、なかなかない。でもイングランド相手では...。
久保:やっぱ前にすごいヤツがいると、そうなっちゃうんですよね。(失点が)怖いから(自陣に下がってしまう)。自分の目から見たらイングランドのバックライン(G・ネビル、テリー、キャンベル、A・コール)なんて、穴がなかったですもん。自分はその程度の選手だった(笑)。でも、ロナウド(元ブラジル代表:フランスW杯MVP・日韓W杯得点王)だったら、余裕で穴を見つけるでしょ(笑)。そうなれば、相手DFも下がらざるを得なくなって、主導権を握れる。
「何じゃコイツ」っていう選手
――本大会で日本がベスト16の壁を超えるために必要なことは。
久保:大迫と(大久保)嘉人を合体させたような選手がいたら、いけるんじゃないですか(笑)。
やっぱりドカーンという選手が出てくるかどうかじゃないですかね。中田(英寿)でも無理で、本田(圭佑)と香川(真司)でも厳しかった。よっぽどの選手が出てこないと、ベスト16には行けても、その先はね。
チーム力っていうのもあるかもしれないけど、結局は点を取るなり、ゲームを決めたりするのって「何じゃコイツ」っていう選手(スーパースター)じゃないですか。それがベスト8じゃないですか。伸二が(1999年に)膝をけがさせられなければ(日韓W杯かドイツW杯でベスト8に)行っていたかもしれない。
――そういった意味で、注目している日本人選手はいますか。
久保:「堂安(律)ですかね。堂安を見た時は「うぉ」ってなったし、(スーパースターに)なりそうな気もした。可能性は、あると思う。あの「やってやる」って顔も好きだし、左足でドリブル行くのも良いし、今後が楽しみですね。
◇
森保ジャパンとジーコジャパンが似ているという声には、「似てないでしょ、全然違うチーム。試合のテンポがあきらかに違うし、走っている量も全然違う」と即答した久保氏。そして、前編で語られたように、今の代表選手たちは色々なバリエーションを持っている、と。
話を聞いていて、森保監督は守備の規律を整え、ハイプレスとミドルプレスのゾーンディフェンスからボールを奪い、繋がずにシンプルに中央を狙う。モダン化されたリアクションサッカーをベースとし、相手に中央を固められたら「選手に考えさせる」ことで生まれる創造性で打ち破ることを考えているのではと思った。それはそれで面白い。
だが、相手にプレスをかわされ始めると連動できなくなり、中央を固められた時の選手間のアイデアの合致も少ない。東京五輪では、チームの柔軟性に不安も持った。
本大会ベスト8以上を目指すには何が必要か。この連載で様々な識者に聞き、考察したい。
石井紘人 @ targma_fbrj
久保竜彦(くぼ・たつひこ)
1976年6月18日生まれ。元々は読売ジャイアンツ好きの野球少年だったが、小学生時代の指のけがをきっかけにサッカーの道に。筑前町立三輪中学校を経て、筑陽学園高校に入ってから才能の片鱗を見せるものの、ビッグマッチには縁なくテストを受けてサンフレッチェ広島に入団。2年目となる1996年から才能が開花し始め、98年には日本代表に選出される。そして、2003年に横浜Fマリノスに移籍すると一気にブレイク。ジーコ監督の日本代表にも選出され、EUROを控えた優勝候補のチェコから得点を奪うなど、日本代表では32試合で11得点を奪った。
その後はけがに苦しむが、池田誠剛氏に紹介された山形県高畠断食道場や夏嶋隆先生を師事し、2011年までJ1やJ2リーグでプレーした。「間近で見た中で巧かったのはジダンとジーコ」。
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