元警視庁ツイッター中の人が伝授 失敗しないアカウント運用委託術

   「ツイッター警部」「本職さん」「甲さん」。これらの愛称で親しまれてきた、警視庁公式ツイッターアカウント初代中の人・中村健児さん。当時、個性を押し出した運用をしながらも炎上を一度も起こさなかった「ツイッターのプロ」だ。

   現在は、ツイッターに特化したサービスを提供するフォルクローレ(千葉県松戸市)代表を務める。主な事業は、顧客企業のツイッター運用を引き受け、日々のツイートや他企業アカウントとの交流を行う「アカウント運用請負」や「運用サポート」、「並行運用」がある。こうしたサービスを活用するメリットを取材した。

(右から)中村健児さんと天渡早苗さん。ジェイ・キャストのマスコットキャラクター・カス丸を挟んで
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「ツイッターを活用して売り上げにつなげたい」と相談され

   フォルクローレ設立は2020年10月。コロナ禍での出発となった。中村さんは、景気が悪くなると広告・宣伝費は最初に削減されやすいことから、「アカウント運用請負への問い合わせが来ても、成約に至らないケース」があり、厳しさを感じているという。

   「ツイッターを活用して売り上げにつなげたいと」の相談が、しばしば寄せられる。実現には日頃の情報発信や、交流を積み重ねて、ユーザーの信頼を得る必要がある。長い時間がかかるのだ。

「すると即効性を求める顧客には、『期待するサービスではない』と受け止められてしまうのです」

   長い時間を要する理由は、「フォロワーの数=ファン数」と言えない点にある。アカウントフォローを条件にプレゼントキャンペーンを打てば、短期間でフォロワーは獲得できる。しかし「プレゼント」を動機に集まってきた人が、平時のツイートや企業の取り組みにまで興味を示すとは限らない。

   そのため、例えばフォロワー1000人でもツイートには「いいね』が1ケタということが起こる。「ファン」を増やしたい企業側が、フォロワーとファンの違いを知らないまま、「フォロワーを増やすための施策を行う」マーケティング会社に運用請負を依頼しても、期待した成果は出ない。

   「『広告より、信頼できる仲間からの口コミを重視』する人が増えているので、消費者に仲間だと見てもらう努力が重要」だと中村さん。

「熱量あるファンに宣伝してもらい、新たなファンを生み出す『アンバサダーマーケティング』を意識した運用を目指したいですね」

運用を他社に任せる場合は、双方で「目標」が一致しているかを確認するのが大切だという

プロに任せても「二人三脚」で運用を

   フォルクローレでアカウント運用請負に従事するのは、全員が元「中の人」。炎上を一度も起こさず、多くのファンを獲得した実績を持つスペシャリスト集団だ。その中から、依頼企業との相性をみて、中村さんが担当を決めている。

「コミュニケーションや、エンゲージメント(ツイッターへの反応数)重視の運用」という全体方針や、依頼企業のイメージに合った「トーン&マナー」で投稿する、とのルールはある。「あとは各担当者に一任し、運用方針をまとめた企画書を作ってもらっています」。

   中村さんによると、「ツイッター運用は、縛りすぎると上手くいかない」。例えば「1日5ツイート投稿する」と定めると、企業の設立記念日や商材がメディアに取り上げられて盛り上がっていても、「今日はもう5ツイートしたので、これ以上投稿できない」となり、せっかくのPRチャンスを逃してしまう。


担当者を信じ、必要以上に干渉しないようにしている

   請負担当者は、依頼者と毎日チャットで連絡を密に取り、ツイートに必要な情報や画像データをリクエストしたり、要望をヒアリングしたりする。フォロワー増が急務だと相談されれば、プレゼントキャンペーン企画を用意する。

   「アカウントを炎上させたら、傷つくのは表に出ている企業名。絶対に避けねばならない」と中村さん。そのためにも、双方の担当者間で伝達ミスや誤解がないよう信頼関係を築きつつ、相手から常に新鮮な情報を受け取るよう担当者に指示している。企業が掲げる目標や優先事項が変わることもあるためだ。

   中村さんがやりとりに口を挟むことは、ほぼない。どのようなチャットをしているか、中村さんと、フォルクローレ事務員・天渡早苗さんのチームで常に確認している。

「天渡さんは面白い提案や企画を素早く見つけては、担当者を褒めるのが上手ですね」

警視庁時代から甲さんと共に活動してきた天渡 早苗(てわた さなえ)さん

   一方で、フォローやサポートを手厚くしても、トラブルはゼロにできない。こんなことがあった。

「ユーザーから寄せられた声に、依頼企業の社員が強い表現で反論してしまったのです」

   普段は、依頼主に代わってフォルクローレの担当者がツイートしている。そのトーンとは異なる攻撃的な投稿だったため、「フォロワーからすれば、人格が一変したように感じられたのでは」というのだ。関係者で何度も話し合い、「投稿を控え、対応を任せてください」と伝えたが、理解してもらえなかった。

   アカウントには日々、さまざまなリプライが寄せられる。いわれのない誹謗中傷も少なくない。必要に応じて毅然と受け流す「スルースキル」も求められる。

   こうしたプロの運用術を見て吸収できるのが、「アカウント運用請負」を依頼する魅力の一つだろう。中村さんは「アカウントは誰にでも開設できますが、ファンを作り、本業へ還元できるまでに成長させるのは並大抵ではなく、多くの壁がある」と話す。その壁を、社内だけでなく社外のプロと一緒に乗り越えるのも手だ。

   中村さんは2022年1月27日、オンライントークイベント「みかんの汁の飛ばし方」を開催する。本人のツイッター運用の考え方に触れられそうだ。これは著書「中の人は駐在さん ツイッター警部が明かすプロモーション術」の出版記念。カメラの前で、警視庁アカウント担当者当時の話をするのは初めての試みだという。

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