在宅避難の盲点「情報が届かない」 サポート側の連携で「支援格差」解消
大規模災害時に「分散避難」を呼びかける自治体が、増えている。安全が確保できるなら、避難所へ行かず自宅にとどまる、知人や親戚の家を頼る、ホテルのような宿泊施設を利用するといった選択だ。新型コロナウイルスの感染対策としても、密を避けられる。
中でも在宅避難が可能なら、あれこれ気を遣わずに済むだろう。だが行政にとっては安否確認に手間がかかり、結果的にこうした人々が支援対象から漏れる恐れがある。近年、行政とNPOなど外部団体が協力して、被災住民をサポートの網からこぼさない仕組みづくりが模索されている。
きめ細かな対応、行政だけでは...
記者が2021年11月に訪れた、佐賀県大町町。この年の夏、豪雨で広い地域が浸水した。
その2年前にも水害が発生し、多くの家が水没。行政ではその教訓から、住民への防災ラジオ配布や救命ボートの設置と備えを拡充した。2020年10月には「地域おこし協力隊」として、前年の豪雨被災者の支援や町の防災活動を担当する人材を採用。地域住民向けに「防災講座」を開いて意識向上を図ってきた。並行して、住民の交流拠点となる「Free Space Peri.(フリースペース・ペリドット)」の開設を準備していたが、オープン間近の21年8月中旬、またも豪雨災害に見舞われた。
町民に取材すると、ボートで救出された人、自宅の2階へ避難してやり過ごした人、一時は避難所で過ごしたが短期間で家に戻った人とさまざまだった。高齢で、不便な避難所暮らしはできないとの話も耳にした。比較的長い期間の避難生活を、傷んだ自宅で送った人が少なくない印象だった。
一方、町役場では発災後しばらく、災害対応に追われた。長雨の影響でため池近くの山に地滑りの兆候が現れたため、住民に避難指示を発令。職員たちは警戒を続けなければならなかった。避難所の対応も忙しい、行政だけで被災住民へのきめ細かな対応は難しかった。
大町町では2019年の水害以降、「災害に強いまちづくり」を目指してきた。社会福祉協議会や災害支援NPOとの連携を深め、備えてきた。21年夏の豪雨では、住民ひとりひとりに向けたケアが現実的には難しい行政側を、NPOなど外部団体がフォローした。
家庭訪問により在宅避難者を把握
大町町住民の交流拠点「Free Space Peri.(フリースペース・ペリドット)」(写真提供:ピースボート災害支援センター)
大町町では昨夏の水害発生後、先述の「ペリドット」ほか公民館分館を支援交流拠点として設置。地域おこし協力隊と自治会が運営主体、ピースボート災害支援センター(PBV)ほかNPOが運営サポートとして、住民への物資配布や食事の提供、損壊した家の応急処置に使う機材貸し出しや、浸水による壁や床下のカビ調査を行った。
被災住民は、避難所にいれば必要な情報を得やすいが、在宅避難だと自発的に入手しにいかねばならない。支援側にとっても、在宅避難者を全て把握するには時間がかかる。
支援交流拠点は、被災住民の状況を聞く役割も担った。足を運んできた人から心配事を聞き出し、早めに対応したほうがよいことは拠点運営者が行政につなげた。
ただ、在宅避難者全てが拠点に来るとは限らない。高齢で外出が簡単でない人もいる。町では発災後、住民の罹災(りさい)状況を把握するため行政の医療チームや地域おこし協力隊、NPOが各家庭を訪問して回った。ここでは、2019年の水害後に設置した「CSO連携室」が機能した。「CSO」とは「市民社会組織」の意味。地域おこし協力隊が窓口となってNPO、町役場、大町町社協が協働連携し、必要に応じて集まって情報や意見交換を行う。
被災住民のため、支援側の行政やNPOがコミュニケーションを重ねた(写真提供:ピースボート災害支援センター)
この時の罹災状況調査では、各団体がそれぞれ被災住民に何を聞きたいか「ヒアリング項目」をすり合わせた。集まった情報をCSO連携室で集約し、被災状況を確認できた。さらに、罹災の手続きに役場へ来た人にアンケートを実施。自宅で「電気が使える・使えない」といった状況や健康状態を問う質問と、細かく尋ねた。
在宅避難者のヒアリングとアンケートは、8月末に開始して9月中旬に完了した。2019年の水害時では、こうした住民の状況把握が始まったのが発災からおよそ3か月後ぐらいだったというから、比較するとかなり早期に状況が把握できたことになる。
近年は大規模な自然災害が頻発している。住民のケアを丁寧に、長期間続けるには、行政だけでは難しい。大町町のようにNPOをはじめとした支援団体、さらに地域住民やそのリーダーと行政側が普段から連携することで、万一の際でも住民の被害状況を早く把握し、その後の継続的な支援につなげやすくなるだろう。
(J-CASTトレンド 荻 仁)