久保竜彦「アジア予選は苦戦して当然」 戦ったからこそ分かる難しさ

(新連載)サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年

   2022年はサッカーワールドカップ(W杯)が、中東のカタールで開かれる。日本代表にとっては「ドーハの悲劇」が起きた因縁の地。現在、アジア最終予選を戦う「森保ジャパン」は、4勝2敗の勝ち点12でグループBの2位につけるも、決して油断できない。

   アジアを勝ち抜いてW杯に出場できるのか。そして本大会ベスト8以上を目指すには何が必要か。サッカージャーナリスト・石井紘人氏の連載が、今回からスタートする。

   初回は、元日本代表・久保竜彦氏のインタビューだ。主力としてプレーした際は、1年間で12試合8得点と驚異の数字をマークしたストライカー。「森保ジャパンは勝てるのか」を、率直に聞いた。

久保竜彦氏(2015年、中田浩二・柳沢敦・新井場徹 合同引退試合で)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
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楽に勝った試合なんてない

――森保一監督率いる日本代表が、W杯アジア最終予選で苦戦しています。メディアやファンからはいら立ちの声も上がっていますが、選手の視点で見たとしたら、どのように感じますか。

久保:自分が選手だった時は、苦しくて当たり前だと思っていました。楽に勝った試合なんて記憶になくて、アジアにはアジアの難しさがあります。(メディアやファンは日本代表が)強くなっているのを感じたいから(いら立ちが出るの)かもしれないですけど、そんなに甘くないですよ、やっている選手からすると。

――選手が言う「アジア予選の難しさ」とは、どういったものでしょうか。また選手間で認識の違い、たとえば「難しいとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかった」などはありますか。

久保:アジアの難しさは相手に守られるというか、「ベタ引き」のチームもあるので、最初の得点をとるのがすごく難しいんですよね。独特の気候もありますし。
 初めて選出されて試合に出る時に、ギャップを感じることはあると思います。テレビで見ているのと実際の試合は全くの別物です。それを知らないと、ちょっと浮つくというか、変な自信(から過信)で、日本人と対戦する感覚で試合に入っちゃうとうまくいかない。
 インドやインドネシアと試合した時も、相手は小さくて「簡単にヘディング勝負で行けばいいや」と思うんですけど、そこにも(日本人との感覚の違う)難しさがありました。

――久保さんは、W杯アジア予選とアジアチャンピオンズリーグ(アジア大陸クラブ選手権大会)の両方を経験されています。アジアチャンピオンズリーグでの経験がアジア予選に生きることもあるのでしょうか。

久保:中東には行ってないから分からないけど、韓国のチームとだけはヒリヒリ感がありましたね。

――なるほど。アジアチャンピオンズリーグの1、2試合では経験値を積めないように感じます。

久保:「(経験が少なくてもコンディション的に)キレている選手を使う」というのを(メディアやファンが言っているのを)聞いたこともありますけど、現役時のアジア予選の感覚では「そんなに簡単に日本代表のポジションはとれないよ」「パッと代えればチームがうまくいくわけではない」と思っていました。

スーパースターでないとすぐ結果出せない

――森保監督のメンバーの固定化が批判されています。ジーコ監督時代も同様の批判があり、久保さんは控え組の時もあれば、先発組の時もありました。控え組の時は「早く俺たちを使え」と思っていましたか。

久保:紅白戦や親善試合では「自分もやれる」と思っていました。でも、アジア予選でオマーンと試合をするのは全然違う。独特の流れとか難しさのあるアジア予選で「ああ、やれるな」と思うのに5、6試合かかりました。

――それは国際親善試合に何試合出ようと...

久保:関係ない。

――そういった意味では、メンバーの固定化は監督としてはリスクを軽減させるためというわけですね。

久保:選手がなじんでいない、慣れていない......森保さんも色々と経験されているから、そういう判断になると思います。自分の見解は、監督目線ではなくて選手目線になりますけど、「パッと入ってすぐに結果を出す選手」ってよっぽど(スーパースター)だと思います。

――途中交代から日本代表のキャップ数を重ねて、結果を残して先発に食い込んでいく方が久保さんはやりやすかったですか。また、本来のポジションと違う使われ方だとしても、試合には出たいものなのでしょうか。

久保:自分は精神的にも身体的にも、徐々に慣れていく力しかなかったですね(笑)。でも、(大久保)嘉人(元サッカー日本代表)が日本代表に入ってきた時には、「コイツにはポジションとられるかも」と思いました。そんな嘉人だって、結果(日本代表初ゴールは21試合目)を出すのには時間がかかった。(Jリーグ歴代最多得点記録を持つ)嘉人くらいの選手でも、です。
 ポジションに関しては、自分は「出る」が最優先でした。誰でもそうじゃないですか? そこから、自分が本来狙っているスタートポジションをとりにいく。出て、良いプレーを見せることでつかめる。古橋(亨梧:セルティック)も、(アジア予選で)いくつか(決定機)ありましたけど、シュートに力が乗っていない。仕方ないです。それが「W杯アジア予選に初めて立つ」ということだと思っています。
 真剣勝負の試合は、相手の足が出てくる一歩の長さも違うんですよ。本当に。アジア人でもバネが違うし、そこに各国で雰囲気の違いも出てくる。

――それは、親善試合だとけがしたくないからで「抜く」部分もあるけど、真剣勝負の場ではリスク覚悟で足を出してくるからでしょうか。

久保:だと思いますね。この試合で終わっても良いっていう選手が集まって、国を背負ってピッチに立つわけですから。自分もその気持ちだったし。

ドキドキの試合が見られますよ

――最近の日本代表の試合を見て、どのような印象を持ちますか。

久保:直線的な展開が多いかな。でも、それはそれでカウンターを受け辛いというのもあるし。自分が好きなのは、堂安(律:PSV)とか中島(翔哉:ポルティモネンセSC)が出ていた時の「そこ見ていた?」「そのタイミング?」という日本代表です。ただ、今の日本代表は、そういう試合も出来る中で、守備をがっつりやっている手堅い試合をしているんじゃないかな。

――メディアやファンからの「もっと得点を」という声を受けて、選手たちはどのように感じていると思いますか。

久保:1点差でもチームが勝っているということは、チームをいじらないということ。控えの選手からすると、ポジションをとるのは難しいと感じているはず。ただ、スタメンのFWは1-0だと「ぐわっ」と(自身に不満を)思っているかもしれません。見ている人たちからすると、カチカチのサッカーなんでしょうけど、選手からすると勝たないと意味がない。
 でも、逆にドキドキの試合が見られますよ。皆は、楽に勝つような面白い試合を見たいのかもしれないけど、この間の(2021年10月に埼玉スタジアムで行われた)オーストラリア戦とかしびれたもんなぁ。

   取材中、何度も「今の日本代表の方がうまいし、レパートリーもある」「俺はW杯出てないしなぁ」と現役選手たちへのリスペクトを語り、「オーストラリア戦は『うぉ、しびれるなぁ。これがサッカーだな、おもろいなぁ』って思いましたよ」と「選手時代から、どっちに転ぶか分からない試合が好きだったんですよ」と興奮気味に明かしてくれた。久保氏のような心構えで試合を見れば、また違った森保監督率いる日本代表が見えてくるかもしれない。

   インタビューは後編に続きます。「ジーコジャパンと森保ジャパンの違い」「日本代表のワントップ問題」「今の日本代表の横パスが多いのは...」「日本がベスト8に進みために何が必要か?」「アジア予選とW杯ベスト8常連国との戦いの違い」を、久保氏が語ります。


久保竜彦(くぼ・たつひこ)
 1976年6月18日生まれ。元々は読売ジャイアンツ好きの野球少年だったが、小学生時代の指のけがをきっかけにサッカーの道に。筑前町立三輪中学校を経て、筑陽学園高校に入ってから才能の片鱗を見せるものの、ビッグマッチには縁なくテストを受けてサンフレッチェ広島に入団。2年目となる1996年から才能が開花し始め、98年には日本代表に選出される。そして、2003年に横浜Fマリノスに移籍すると一気にブレイク。ジーコ監督の日本代表にも選出され、EUROを控えた優勝候補のチェコから得点を奪うなど、日本代表では32試合で11得点を奪った。
 その後はけがに苦しむが、池田誠剛氏に紹介された山形県高畠断食道場や夏嶋隆先生を師事し、2011年までJ1やJ2リーグでプレーした。「間近で見た中で巧かったのはジダンとジーコ」。
 現在は2018年に移住した山口県光市の室積にてカフェで牛島の塩を使った塩コーヒーをいれている。仕事のオファーは https://www.dragon-official.com/

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