ファーウェイはZ世代女性ねらう ディオールの口紅「999」のようなイヤホン
【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
米国の規制でスマートフォン(スマホ)生産が難しくなり、日本であまり話題にならなくなったファーウェイが、「Z世代」「女性」をターゲットにしたイヤホンをクリスマス商戦に投入した。
見た目は完全に高級コスメで、中国では「ディオールの口紅の定番カラー999みたい」と盛り上がっている。
ファーウェイが発売した完全ワイヤレスイヤホン「FreeBuds Lipstick」は、商品名が示す通り口紅のような外観をしている。筆者も10日ほど利用しているが、パッと見てイヤホンだと分かった人は周囲にいなかった。
ボディーはステンレス製で高級感を出し、商品が入ったギフトボックスには香りをつけるなど、完全に「クリスマスコフレ」仕様だ。
技術力をウリにするファーウェイとあって、内耳の形状と装着方法を自動で判断し、最適なノイズキャンセリング・モードにする機能や、2台のデバイスに同時接続し、「PCで作業をしていたら、スマートフォンに電話がかかってきた」というような場面で使用するデバイスに自動で切り替わる機能など、最新技術も詰め込んだ。
スマホの「学級委員長」がイメチェン
ファーウェイのスマホシェアが急伸し、アップルを抜いて世界2位に浮上しようとしていた数年前、20代の中国人に主要スマホメーカーのイメージを聞いたことがある。いわく、
・アップルは海外からのイケメン転入生との評だった。
・サムスンは自分を裏切った親友(当時、スマホの発火事故で信用を落としていた)
・ファーウェイは学級委員長
・シャオミは運動部のキャプテン
・OPPOはクラスのお調子者
実際のユーザー層データでは、OPPOが大学生を中心とした若者に、シャオミはガジェット好きの男性に、そしてファーウェイはビジネスパーソンに人気を集めていた。
そのファーウェイが、女性に特化した商品を出すのは、おそらく2つの理由がある。
一つ目は日本でも大きく報道されている通り、米国の半導体輸出規制などによって同社がスマホの量産をほぼ断たれた状態にあることだ。2019年に約2億4000万台を出荷し世界2位のシェアを誇っていたのが、2020年は3位に後退、2021年の出荷台数は1億台を割り、トップ5から脱落する可能性が高い。
ファーウェイはスマホの穴を埋めるため、産業向け5Gソリューション、自動車ソリューションなど新規事業に注力しているが、コンシューマー分野での存在感も維持したいだろう。スマホというキラーコンテンツを奪われたファーウェイにとって、「FreeBuds Lipstick」はインパクトが強くメッセージを一目で伝えられる商品になる。
もう一つの背景は、2021年の中国で「Z世代・女性消費」が大きなトレンドになったことだろう。 中国都市部の高収入女性は、キャリアや結婚のプレッシャーが大きい一方で、「家を買わないと結婚できない」男性よりは趣味や自己投資に使えるお金が多い。女性がストレスを解消するための「ご褒美消費」「癒やし消費」でフィギュアやペットビジネス、果実酒など低アルコール飲料市場が急成長しており、どの企業にとってもZ世代の女性を取り込むことが成長の鍵になっている。
日本では男性向けが主流だが
「FreeBuds Lipstick」は日本では2021年12月17日発売で、価格は2万1780円とイヤホンとしては安くない。これだけ女性受けを狙ったデザインにもかかわらず、日本では価格や商品的に男性消費者向けのマーケティングが主流のようで、広告も男性向けメディアへの出稿が目立つ。
一方、中国では女性が自分で買うことを想定している。ファーウェイ自身は言及していないが、SNSではイヤホン本体の赤が、「究極の赤」「伝説的な赤」とも称されるクリスチャン・ディオールのルージュカラー「999」と同じだと盛り上がっている。
ファーウェイはこのイヤホンと同時に、女性向けのスマートウォッチも発売。Z世代の女性をターゲットにした年末年始商戦でどれほど成果を挙げられるか、注目される。
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