新型コロナ後遺症は長くてつらい 「労災認定」ハードル高く二重苦
新型コロナウイルス後遺症についての報道が増えている。新規感染者数は激減したものの、長引く後遺症に悩んでいる人が少なくないと見られるからだ。なかなか労災認定を受けられないということも大きな問題になっている。
無症状でも後遺症
後遺症については、東京都世田谷区が2021年9月、大掛かりな調査結果を発表した。無症状だった人も含めたコロナ感染者8959人にアンケート。3710人から回答を得た。これまでもいくつかの調査が公表されているが、世田谷区の調査は国内では最大規模ということで注目された。
朝日新聞によると、「後遺症がある」と答えたのは1786人(48.1%)、「ない」は1830人(49・3%)。症状別では嗅覚(きゅうかく)障害が最も多くて971件。全身の倦怠(けんたい)感(893件)、味覚障害(801件)などが目立った。
日経新聞によると、男性では41.9%、女性では54.3%。女性の割合が高かった。年代別にみると、30~50代では半数超が後遺症を経験していたのに対し、10代や80代では3割強と差があった。基礎疾患のない感染者では、過半が嗅覚障害や味覚障害を訴えたのに対し、基礎疾患者は全身の倦怠感を訴える人が最も多かった。
注目すべきは、無症状だった人でも、3割近くが後遺症を訴えていたことだ。コロナの不気味さを見せつけている。軽症~重症者では6~7割で後遺症がみられたという。
詳細は世田谷区のウェブサイトで公開された。男性の場合、陽性と診断されてから120日後でも37.2%、180日後でも22.2%、女性の場合もそれぞれ38.4%、19.3%が後遺症を訴えていた。
時事通信は11月8日、国立国際医療研究センターによる後遺症の調査結果を紹介している。それによると、女性の方が男性と比べ、倦怠感は2倍、脱毛は3倍。若者や痩せ形の人の方が味覚・嗅覚障害が出やすかった。4人に1人は発症から半年後も、10人に1人は1年後も症状が残った。世田谷区の調査とおおむね傾向が一致する。
一般企業では対応しないケースも
後遺症に悩む人たちが、なかなか労災認定を受けられないという実態も、このところ再三報じられている。
日経新聞は11月16日、「コロナ労災 感染者の1%」という厳しい現実を伝えている。「業務起因の感染なら労災の対象となるが、一般の企業では『感染経路が不明確』などを理由として対応しないケースがある」と説明している。
厚生労働省の集計では、コロナ感染に伴う労災保険の申請件数は9月末で1万8637件。このうち認定されたのは1万4834件。日経新聞は、日本の170万人を超える感染者総数の1%弱にとどまっていると指摘している。認定された人の77%は医療従事者だという。
NHKは11月4日、兵庫県内の特別養護老人ホームで理学療法士として働く40代の男性のケースを報じている。男性は、ホームの利用者が新型コロナに感染したため濃厚接触者となり、去年12月にPCR検査を受けて感染が分かった。
2か月近く療養して職場復帰したが、強い倦怠感や息切れ、それに味覚障害などが続いて悪化したため、今年4月から再び仕事を休んだ。医師からは新型コロナの後遺症だと診断され、労働基準監督署に申請したところ「こうした症状は業務で感染した新型コロナとの因果関係が認められる」などとして、8月に労災が認められた。男性は現在も働けない状態が続いているという。
健康保険に傷病手当金
労働者が感染した場合はどうなるのか。神奈川県のウェブサイト「よくある相談事例(新型コロナウイルス感染症関連)<休業編>」によると――。
「労働者が感染して休業する場合は、一般的には会社の責に帰すべき休業に該当しないと考えられますので、休業手当は支払われません。ただし、健康保険等に加入していれば、一定の要件のもとに、各保険者から傷病手当金が支給されます」
「労働者の感染が労災と認定された場合、休業期間中は労災保険から休業補償給付が支給されます」
厚労省のウェブサイト「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」にはさらに、様々なケースについて詳しい質疑が出ている。
・新型コロナウイルスに感染したため会社を休む場合、休業手当は支払われますか。
・発熱などの症状があるため自主的に会社を休もうと考えています。休業手当は支払われますか。
・ 発熱などがあるため、年次有給休暇を取得して会社を休むことはできますか。
・アルバイトやパートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者も、休業手当の支払いや年次有給休暇の付与の対象となりますか。
労災保険の方が手厚い
健康保険の傷病手当金は、1日につき、標準報酬日額の3分の2に相当する金額が支給される。労災保険の休業補償給付は業務上の負傷や疾病が対象で、給与の約80%(保険給付60%+特別支給金20%)を受けることが可能だ。労災保の方が手厚い。
『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文藝春秋)など雇用や労働問題に関する多数の著書がある今野晴貴(NPO法人POSSE代表)による解説「コロナ後遺症は『労災』になる?」がヤフーに掲載されている。
それによると、給付を受けられるのは、労働基準監督署が業務上生じた災害であると認定した場合に限られる。そのためには、業務遂行性(労働者が使用者の支配下にあること)と業務起因性(業務と傷病等との間に一定の因果関係があること)という2つの要件を満たす必要がある。
厚労省のサイトでは、感染経路が判明しない場合でも、感染リスクが高いと考えられる次のような業務に従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断する、としている。
(例1)複数の感染者が確認された労働環境下での業務
(例2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
今野さんは、会社に責任が認められる場合、労働者は、労災保険で補償されなかった損害の賠償を会社に対して請求することができるし、休業による損害だけでなく、後遺障害による逸失利益の補償や精神的苦痛に対する損害についての慰謝料を請求することができる、としている。