国産の新型コロナワクチンに異変 「トップランナー」が交代した
新型コロナウイルスの国産ワクチンに異変が起きている。開発第一号になるのではないかと期待されていた大阪の新興企業「アンジェス」が2021年11月5日、治験で十分な効果を得られなかったと発表したのだ。
計画が2年遅れる
読売新聞によると、同社は昨年6月末、初期段階の治験を国内で初めて開始し、同12月には中間段階に進んだ。国産のコロナワクチンの1例目になると期待されたが、治験に参加した計560人分のデータを分析した結果、先行する米ファイザー製やモデルナ製などに比べて効果が低く、最終段階の治験を断念。今後は今年8月から進めている改良ワクチンの治験に注力するという。
日経新聞は、「当初は21年春の実用化を目指していたが、有効性を示すため追加の臨床試験(治験)が必要になった。国産コロナワクチンの実現へいち早く名のりを上げた同社だが、開発は計画から約2年遅れることになる」と説明している。
アンジェスは、大阪大学発のバイオベンチャーの新興企業。これまでに日本バイオベンチャー大賞や大阪活力グランプリなどを受賞している。
同社の新型コロナワクチン開発は、他社よりも治験の段階が進んでおり、「トップランナー」とみなされていた。
国から93億円補助
インターネットでは、同社の大幅な遅れについて、疑問を指摘する声があふれている。というのも同社のワクチン開発に関しては、国や大阪府が積極的に支援をしてきた経緯があるからだ。
日経新聞によると、大阪府の吉村洋文知事は昨年6月17日の記者会見で、「アンジェス」が開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンについて、21年春から秋の実用化を目指すとし、数百万人分の製造が可能と説明。「ぜひ大阪でワクチンを実現させたい。オール大阪で取り組む」と積極支援を表明していた。
製薬業界に詳しいサイト「AnswersNews」によると、政府は2020年度の第2次補正予算に、「ワクチン生産体制等緊急整備基金」として1377億円を計上。アンジェスには93億円余りが補助されているという。
現在は塩野義が先行
アンジェスの株価は、昨春段階で500円前後だったが、ワクチン開発の話が市場で評価され、昨年6月後半には一時2500円近くに跳ね上がったこともあった。しかし、ファイザーやモデルナの米国勢が先行したこともあり、徐々に落ちて今月5日段階では507円。
ヤフコメでは、今回の発表を受けて、「国費が投入されているのだから、きちんとした検証や事後報告が必要」「大阪府知事は自分の発言に責任を持ってほしい」「日本のワクチン開発はインド以下」などという趣旨の手厳しい発言が並んでいる。
国産ワクチンは、他の製薬会社も開発を進めている。河北新報の「国産コロナワクチンの現在地は?」という記事(11月5日のアップデート版)によると、「塩野義先行、KMバイオと第一三共追う」となっている。アンジェスは後退しているようだ。