金満で狂うセンス 齋藤薫さんは「安価な上質」こそ洗練のカギと

   GINGER 11月号の特集「ME & MONEY おしゃれとお金のいい関係」に、齋藤薫さんが基調論文にあたる文章を寄せている。特集の副題は「ニューノーマル時代の巡らせ方」。著名な美容ジャーナリストによる指南は、同時に示唆の多い読み物ともなっている。

「お金持ちになれば、何でも買えて、いくらでもオシャレができる...誰の頭にもよぎること。でもちょっと不思議な現象がある...大金持ちになったとたん、逆にセンスが失われて野暮ったくなる人が少なくないことである」

   「野暮化」のきっかけは、ギャンブルでの一獲千金や、結婚で玉の輿に乗る人だけではない。努力の末に成功した経営者とて例外ではないそうだ。齋藤さんクラスの大御所になると、悪い例として挙げる人物もビッグである。彼女が例示したのは、米国大統領 JFケネディの暗殺(1963年)で独り身となったジャクリーン夫人だ。

   世界の女性が憧れるファッションリーダーだったのに、1968年にギリシャの海運王、アリストテレス・オナシスと再婚したら凡庸な富豪夫人に堕した、というのである。

「桁違いの買い物三昧が話題になり、気がつけばその人から洗練が消えていた。明らかに巨万の富が、ファッションセンスをくるわせたのだ」

   何でも好きなだけ買えるなら、おのずと審美眼は衰えていくのだろう。

「限られた予算の中での創意工夫こそがセンスを鍛えること、知っておきたい。お金が足りないから『考える』、それが人を洗練させるのだ」
お金持ちすぎると、センスが…
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ミイラを増やすな

   齋藤さんによると、目に見えないものこそ大切な「風の時代」がいま到来している。むやみにモノを所有するより、未来の自分への投資に価値を認めるトレンド。旅行や様々な観賞体験、習い事...メリハリを利かせてお金を使う時代なのである。

   その上であえてモノを買うのなら、真の一生もの以外は、捨てることを前提に「安価な上質」にこだわるべきだという。「短命のトレンドもの」は迷わずスルーすべし。

「安価なものと安っぽいものは違う...安価でも素材からデザインまで上品な佇まいのものが今はどんどん作られているから、そこをしっかりと見極めるべきなのだ」

   断捨離の考えが浸透し、買い物の極意が変わったそうだ。いずれは捨てるか売るか、とにかく「引き算」をしながら買うことが重要らしい。

「家の中にミイラ化した物を増やさないことが、散らからない暮らしをもたらし、引き出しに余白があることが、今の時代、精神的にも物理的にも高次元な暮らしの肝なのだ」

   そして、こうまとめる。

「風の時代の新たなテーマは、上手に捨てて、家の中の空気を浄化する。またモノよりもコト、所有するより体験することで自分の価値を高めていく。それが結果として美しさや洗練の源となること、忘れないでいて欲しい」

着られる服はひとつ

   GINGER(幻冬舎)は女性向けのファッション・ライフスタイル誌。本号の特集は、お金の上手な使い道を20~30代にやさしく説くもので、「1万円で何を買う?」「失敗しない買いの決め手」「老けないための投資美容」などの企画が並んでいる。

   おしゃれの精神性にも通じた齋藤さんは、特集冒頭を飾る筆者として適任と思われる。娘世代の読者に向けて、自信あふれる「...なのだ」文体で持論を展開する。

   編集部がつけた《お金持ちすぎるとセンスをくるわせる。洗練された人生の鍵は、今、捨てる計算》というタイトルは明確だ。自由に使えるお金が一定あるとされるアラサー世代だが、「限られた予算の中での創意工夫がセンスを鍛える」「お金が足りないから考える」というメッセージには励まされる読者が多いだろう。「上手に捨てて、家の中の空気を浄化する」という一節は、スピリチャルとの境界線が曖昧な齋藤節である。

   コロナ禍で旅行や外食が激減し、娯楽や交際への出費が減った分、自分磨きに回すお金が増えた人は多い。コロナが終わったら「リベンジ消費」が爆発する、との見方もある。

   しかしモノからコトへ、モノでも所有からレンタル、シェアリングへという流れはもはや変わるまい。資産や収入がどれほどあろうと、身体はひとつ。同時に身につけられる服はひとつしかないのだから。

冨永 格

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