真鍋淑郎さんにノーベル物理学賞 マスコミの予想が完全に外れた理由
大気中の二酸化炭素が増えると地表の温度が上がる研究などで、早くから地球温暖化問題に取り組んでいた米国プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎さん(90)が2021年10月5日、ノーベル物理学賞を受賞した。誰もが認める立派な業績を残していた真鍋さん。ところが、日本のマスコミが事前に予想するノーベル賞候補者リストでは「本命」ではなかった。「ダークホース」どころか、ほぼ「無印」の扱いだった。
有力候補に名前が上がらず
日本人のノーベル賞受賞者は昨年までに27人。このうち物理学賞は11人。湯川秀樹博士以来の伝統を受け継いでいる。日本人が受賞する可能性が極めて高い分野だ。
このためマスコミ各社は熱心に事前予想。NHKは、今年受賞する可能性が高い研究ジャンルとして「物質の性質や素粒子に関する成果」に注目。朝日新聞も、「順当なら今年は物性の年だ」として、理化学研究所の十倉好紀・創発物性科学研究センター長、東京工業大の細野秀雄・栄誉教授、さらには、300億年で1秒しか狂わない超々高精度な光格子時計を開発した東京大の香取秀俊教授、大同特殊鋼の佐川真人顧問や、炭素原子が筒状につながったカーボンナノチューブを発見したNECの飯島澄男・特別主席研究員、離れた場所でも情報を瞬時に伝えられる「量子テレポーテーション」を実現した東京大の古澤明教授などの名を挙げていた。真鍋さんの名前はなかった。
産経新聞も「物性分野か、量子力学の分野から選ばれる可能性が高い」と見て、香取氏や量子コンピューターの基礎技術を開発した東京大の中村泰信教授の名を挙げ、日本テレビの直前予想も、香取氏と十倉氏だった。
すでに「もう一つのノーベル賞」を受賞
ところが実際には「ノーマーク」状態の真鍋教授となった。その理由については、真鍋さんが2007~14年に名古屋大の特別招へい教授を務めていた当時、親交のあった須藤健悟・名大教授(大気科学)が5日、朝日新聞に語っている。
「ノーベル賞は地球科学の分野を対象にしないと言われていた上、すでにノーベル賞を補完するとされるクラフォード賞を受賞しているため、『ケリがついたと思っていた』」
周知のようにノーベル賞には対象としていない学問分野がある。クラフォード賞は、1980年に設立された賞。ノーベル賞と同じくスウェーデン王立科学アカデミーが運営しており、ノーベル賞が扱わない科学領域を補完するのが目的とされている。分野は天文学と数学、地球科学、生物科学(環境や進化の分野)。真鍋さんは2018年に受賞している。
同賞は、これまでにも何人もの日本人が受賞している。その中には毎回、ノーベル賞候補者として名前が挙がる学者もいる。ノーベル賞との線引きは、分野によっては微妙なようだが、時事通信は、北海道大理学研究院の見延庄士郎教授(気候科学)の「ノーベル賞に地球科学賞はない」という、研究者のこれまでの受け止め方を伝えている。
マスコミの事前予想に名が出なかったのは不自然ではなく、今回はノーベル賞とクラフォード賞の境界を超えた極めて異例の受賞ということになる。ダブル受賞ということは、それだけ真鍋さんの研究成果が意義深いものだった証にもなりそうだ。