平山郁夫や東山魁夷の「偽版画」 デジタル技術駆使で素人には見抜けない

   大規模な「偽版画事件」の摘発が報じられている。平山郁夫、東山魁夷ら超人気画家の偽作品が、本物だとしてデパートなどで売られていた。

   プロの画商や版画家が絡んでおり、素人には偽物だと見抜けない。デジタル時代を反映して、画像ソフトやスキャン技術を使っていたのが今回の事件の大きな特徴だ。

デジタル時代の事件に
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製作と販売を分担

   各紙の報道によると、大阪の元画商(53)と奈良県の版画作家(67)が著作権法違反の疑いで2021年9月27日、警視庁に逮捕された。無断で贋作(がんさく)を制作・販売し、多額の利益を得ていた疑いがあるという。

   朝日新聞によると、版画は画家や遺族の了解の下、枚数を制限して制作・販売する。画家本人や依頼を受けた版画作家が石や銅などで原版を作り、刷った紙に真作の証しとして画家のサインや印を入れるのが一般的だ。1枚しかない絵画と違い、有名画家の真作を1枚十数万~150万円ほどで買えるため、一定のニーズがある。

   ところが2人は勝手に版画の偽の原版を作製。刷った版画に偽のサインを入れて売るなどしていた。作品は版画家が自身の工房で作り、元画商が展示即売会場で出品したりしたとみられるという。

08年ごろから製作

   日経新聞によると、逮捕された元画商は、全国約40の画商でつくる日本現代版画商協同組合(日版商、東京)の専務理事をしていたこともあるという。業界団体の役員をしているような画商から作品を持ち込まれたわけだから、デパートなども特に疑うこともなく販売していたに違いない。

   同紙によると、偽作品の制作は08年ごろから始まっていた。今のところ容疑の対象となっているのは7作品だが、家宅捜索では約80点の版画を押収。ピカソやシャガールなどの偽物も見つかったとのこと。販売するときは、正規作品に紛れ込ませて売っていたというから、ますます判別がつきにくい。

   同紙によると、偽物づくりでは、「カタログ・レゾネ」と呼ばれる学術研究の基礎資料が使われたという。特定の芸術家の全資料が網羅されている。署名の位置なども記されている。捕まった版画家は、このカタログに掲載されている作品をスキャンし、画像編集用のソフトを使って色を精密に分析。油絵などの技法、色合いの特徴なども研究して製作していたという。

不自然に多くの作品が流通

   美術の歴史には、贋作が付きまとう。有名なのは「フェルメール贋作事件」だ。

   ナチス・ドイツは第二次世界大戦中に、占領国から多数の名画を入手した。ところが、本物とされていたフェルメールの作品は、実は20世紀になって描かれた偽物だとわかる。『フェルメールになれなかった男 20世紀最大の贋作事件』(ちくま文庫)に詳しい。

   贋作者のハン・ファン・メーヘレンは一流芸術家になりそこなった男だった。しかし、贋作はあまりに完璧。法廷で実際に贋作を描き、自分の技術力を見せつけたという。

   今回の事件で、贋作者が見せつけたのは、デジタル能力だった。しかし、簡単に作れるので刷りすぎたようだ。日経新聞によると、日本現代版画商協同組合の複数のメンバーが、同じ版画作品が不自然に多く流通していることに気付き、インチキが発覚したという。

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