京都大で学者の研究不正 バレるのに論文のコピペや改ざん止まない背景
学者の研究論文で不正があった、ということがしばしば報じられている。捏造や改ざん、盗用など手口は様々だ。エリートと称される人たちが、なぜバレるかもしれない不正に手を染めるのか。背景には研究を取り巻く環境変化もあるようだ。
調査に応じず
京都大学は2021年9月28日、熊本地震(2016年)に関連して、理学研究科の元教授が発表した論文4本について、データの捏造(ねつぞう)や改ざんの研究不正があったと発表した。京大は論文の撤回を求め、28日付で懲戒解雇相当とする処分を出したという。
朝日新聞によると、不正が認定されたのは、元教授らが17年から18年に英科学誌などに発表した、熊本地震で現れた断層や亀裂を解析した論文4本。地図上で亀裂の位置を示した点の集まりを大量にコピー・アンド・ペーストしたり、棒グラフの形を書き換えたりするなどの捏造や改ざんが、4本で計37か所あったとされる。
京大は、共著者への聞き取りなどから、元教授が捏造や改ざんを実行したと判断。データを自身の学説に沿うようにする意図があったとみている。元教授は京大の調査に応じなかったという。
こうした論文不正は他の有名大学でも頻繁に起きている。インターネットで検索すると、東大、阪大などの事例がすぐに出てくる。
競争の激化
論文不正の頻発については文部科学省も以前から頭を痛めている。すでに2006年には「研究活動の不正行為に関する特別委員会」が設けられ、「研究活動の不正行為への対応のガイドライン」なども公表されている。「不正行為が起こる背景」について、詳述されている。
一つは研究費獲得の競争激化。「成果が目立つ研究でなければ、研究費が獲得できないのではないかという懸念が増大し、研究費獲得自体がいわば一つの評価指標と化して、競争の激化と性急な成果主義を煽る側面もあると指摘されている」。
さらには、研究者の任期付任用の増加も影響しているようだ。「ポスト獲得競争が激化し、特に若手研究者にとっては任期付きでないポストを早く得るために、優れた研究成果を早く出す必要性に迫られる状況も一部で醸し出されてきており、それが極端な場合、不正行為につながる可能性がある」と分析する。
「実験等で出たデータの処理や論文作成のスピードを上げようとするあまり、研究グループ内で生データを見ながらじっくり議論をして説を組み立てていくという、研究を進めていく上で通常行われる過程を踏むことをおろそかにする傾向が一部の研究者に見られる」ことも指摘されている。
ノーベル賞でも疑惑
このほか、研究者の倫理感の欠如や、組織の自浄作用の低下なども原因として挙げられている。さらには研究分野が細分化し、各研究者の専門性が深まり、他の研究室はもとより、同じ研究室においても、他の研究者がどういう研究をどのように行っているのかわからないという状況さえ現出していることも一因、などと指摘されている。
今や多くの研究者が、かなり強いプレッシャーの中で研究を続けている。よりスピーディーに、自分の仮説に合ったデータを集めようとするとき、「不正行為」の誘惑にかられてしまう。
科学分野の研究不正は日本のみならず、海外の研究者の間でもしばしば明らかになっている。科学研究に国境はなく、世界的に名の通った学術雑誌に、だれよりも早く論文を載せることで全世界の研究者が競い合っているからだ。
ある画期的な研究について、だれが最初に着目し、人類に貢献するような成果につながったのか。10月上旬にはノーベル賞が決まるが、過去には、ノーベル賞受賞者の研究にもデータについて疑惑が指摘されたことがあったという。