世論調査「回答率」低下で信頼性は かつては80%超、今や40%台に落ち込みも
オリンピックや自民党の総裁選など、大手メディアでは民意を探る世論調査が頻繁に行われている。「世論調査によりますと...」と言われると、なんとなく「世論」はそうなのかなと思ってしまう。
ところが、近年、この世論調査は大きな問題に直面している。「回答率」がどんどん落ちているのだ。
報道各社とも「低回答率」に苦しむ
「内閣支持率34%横ばい、コロナ対策『評価せず』64%」――日経新聞とテレビ東京が2021年8月29日夜に公表した世論調査だ。記事を最後まで読んでいくと、「調査は日経リサーチが27~29日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し、1025件の回答を得た。回答率は46.6%」と記されている。驚くのは回答率の低さだ。なんと過半数を下回っている。
「菅首相の続投、本当にしてほしい? 自民支持層の〝シビアな評価〟 世論調査で浮かび上がった厳しい視線」――これは「withnews」が8月17日に配信した記事だ。朝日新聞の世論調査がもとになっている。
「コンピューターで無作為に電話番号を作成し、固定電話と携帯電話に電話をかけるRDD方式で、8月7、8日に全国の有権者を対象に調査。固定は有権者がいると判明した1095世帯から556人(回答率51%)、携帯は有権者につながった1964件のうち839人(同43%)、計1395人の有効回答を得た」と説明されている。こちらも「固定」と「携帯」を合わせた回答率は、5割を割っている。
こうした世論調査は乱数番号に基づいて無作為に電話する「RDD方式」で行われている。報道各社とも「低回答率」に苦しんでいるのが実情だ。中には「回答率」を公表していない調査もある。
内閣府の調査も低下
日本の世論調査には長い伝統がある。かつては回答率が80%を超えていた。結果に対する信頼度も高かった。
たとえば、内閣府「国民生活に関する世論調査」の回収率は、1984年までは80%を超えていた。しかし、それ以降は少しずつ低下。95年には75%を割り、2004年には70%ほどに。さらにその後も落ち続け、最近は50%台だという。「回答拒否」が増加している。報道機関のみならず、政府も民意の分析に苦慮していると推測できる。
かつては、世論調査というと、調査員による個別訪問だったが、個人情報の保護意識が高まり、2006年には法改正で住民基本台帳の閲覧をもとにした調査が厳格化された。
替わって登場したのが固定電話による調査。さらには携帯電話にもかける方式が一般化する。ところが、イタズラ電話や勧誘電話を警戒して、知らない電話番号からかかってくる電話には出ない人が少なくない。
インターネットを調べると、「世論調査の電話がしつこい。どうすればいいか」というような質問も目にする。「はっきり断らないと、何度でもかかってくる」と、明確に「拒否」することを推奨するような回答が掲載されている。戸別訪問なら、目の前にいる調査員に回答拒否を伝えにくいが、電話なら容易だ。
国民の縮図になっているか
世論調査と類似の調査は、インターネットでも頻繁に行われている。しかし、ネット調査は、特定のサイトを見ている人による偏った回答となりがちだ。大量の回答が集まっても、「ネットの声」がただちに国民一般の声をフラットに拾い上げ、縮図としたものになっているとは言えない一面がある。
大手メディアや公的機関の世論調査は「公正」「厳密」「科学性」にこだわる。担当者には専門知識を持つ人も多く、日頃から研究会などを通じてノウハウを蓄積し、担当者同士の横のつながりも深い。
それだけに、回収率の低下は頭が痛いと思われるが、「回収率が高いことはイコール品質が高いことではない点にも注意が必要だ」という指摘もある。
日経リサーチ・佐藤寧世論調査部長のコラム「世論調査のルール(3)回収率を高めること」によると、例えば、回収率を高めるため、1問だけでもいいからと強引に回答を得たのでは、回収率が高まったとしても、無回答が不自然に多い、偏ったサンプルになってしまう。また、比較的回答が得られやすい年配層からの回収に注力することで回収率を高めようとした場合には、年配層に偏ったサンプルになってしまう。
「調査の趣旨を調査員が丁寧に説明して調査対象者にご理解いただき、調査にご協力いただけるよう地道に努力することが重要になっている。この努力を怠ると、対象者は突然の電話でもご回答いただける無警戒な方の集団になり、結果が偏ってしまう」と指摘している。
社会の変化で、世論調査が難しくなる中で、いかにして品質を維持するか。佐藤氏は「自動音声応答通話(オートコール)を使った調査は、世論調査ではない」と言い切っている。
回答率が低くても、きちんと対象者が選定されていたら、精度の高い調査は可能ということなのかもしれない。デジタル時代になっても、世論調査は「人力」に頼る部分が大きいようだ。