新型コロナ「抗体カクテル」に飲み薬 進む治療薬開発、あの「アビガン」も
新型コロナウイルスでは予防策としてのワクチンが重視されているが、このところ治療薬にもスポットが当たっている。とりわけ、「抗体カクテル」による治療が大きな成果を上げていることが注目されている。開発途中の治療薬も多く、コロナに対しては、「ワクチン+治療薬」で対応する体制が少しずつ進みつつある。
95%の患者に効果
スポニチアネックスは2021年9月9日、格闘家の前田日明氏(62)がコロナから生還した話を報じている。
それによると、前田氏は高熱が続き、病院で検査を受けたとき、すでに左肺は肺炎状態。医師には「早ければ1日、遅い人は3日で肺炎が全体に及んで、酸素吸入に陥っていたかも」と告げられたという。「たまたま空きが出た」抗体カクテル療法を受けて症状が改善。点滴を受けた翌々日には36度台後半~37度台まで熱が下がったとのことだ。
前田氏が受けた抗体カクテル療法は、まだ始まったばかりだが、大きな成果を上げている。この療法で、95%の患者の症状が改善したことが、9日の東京都のモニタリング会議でも報告された。
NHKによると、東京都は116の医療機関で抗体カクテル療法を受けた420人を調査。
その結果、95%余りにあたる400人は症状が改善したという。
投与のあとも症状が改善せず入院を続けている人は19人にとどまるという。
発症から投与までの期間をみると、改善した患者の56%余りは4日以内、改善しなかった患者の63%余りは5日以降。早期の治療で効果が出る傾向があることが分かったという。
重症化を防ぐ
NHKによると、「抗体カクテル療法」は「カシリビマブ」と「イムデビマブ」の2種類の抗体を混ぜ合わせて投与する。新型コロナウイルスの働きを抑える効果があり、軽症の人の重症化を防ぐことを目的に日本でも2021年7月、初めて軽症患者に使用できる治療薬として承認された。
先に海外で行われた臨床試験では、入院や死亡のリスクをおよそ70%減らす効果が確認され、米国FDA(食品医薬品局)が2020年11月、緊急の使用許可を出している。その前の2020年10月には、トランプ前大統領が新型コロナウイルスに感染して入院した際にも使われた。
日本ではこのほか3つの治療薬が承認済みだ。「レムデシビル」「デキサメタゾン」「バリシチニブ」だ。どれも主として中等以上や重度の症状の患者が対象。これに対し、抗体中和療法は軽度の患者にも使えるということで、医者にとっても患者にとっても治療薬の選択肢が大きく広がることになった。
複数の治療薬を開発中
しかし、軽症ならだれにでも利用できるわけではない。「日経バイオテク」によると、抗体カクテル療法は高価で、製造量を簡単に増やせず、処方も難しい。
「重症化リスク因子のない患者や症状を呈していない無症状者は投与の対象から外れる」という。したがって、現在のところ、「重症化リスク因子のない軽症患者に投与し、症状のある期間を短縮するような治療薬はまだない」というのが実情だ。
入院していない軽症患者に経口投与できる治療薬の開発は、2020年春以降、世界中で進められてきたという。しかし、効果が認められなかったり、安全性に懸念が生じたりした複数の治療薬が開発競争から脱落したそうだ。
現段階では富士フイルム富山化学、中外製薬、ファイザー、興和、塩野義製薬などが経口投与の治療薬研究を継続中。この中には「アビガン」も含まれている。それらの進展状況が時折、個別にメディアで報じられている。中には、後期臨床試験入りする治療薬も出てきており、早いものでは、21年内にも初期の結果が示され、承認申請につながることが期待されているという。
こうした経口薬が承認され、一般の人が手軽に入手できようになると、社会とコロナの関係は激的に変わる。
塩野義製薬の手代木功社長は「日経ビジネス」21年3月31日号のインタビューで、「ワクチン、治療薬、診断薬」の三点セットが揃うことが重要だと説明。「そのような状況になるのは22~23年ではないでしょうか」との見通しを語っている。