対戦カード「マッチメーク」内緒の話 「ベストバウト」はこうして生まれる
【連載】アイスリボン・藤本つかさ 素顔の女子プロレス
藤本つかさのプロレス時間がやってきました!
今月のわたくし、オリンピックを見て、人間同士のぶつかり合いに何度感動したことでしょう。この日のために準備し、体とメンタルを鍛えてきたアスリート。やっぱり喜怒哀楽をさらけ出す姿って感動しちゃう。
ジャンルは違うけど、とても感化された!
そんなこんなで興奮気味の藤本ですが、今日は「対戦カード・マッチメイク」についてお話しします。
マッチメーカーはシェフ
プロレスは1人ではできません。これは闘うどのジャンルにも言えますが、対戦相手というものが存在します。
ではアイスリボンでは、プロレスの対戦相手はどうやって決定しているのでしょうか。
それは簡単。選手が「この人と闘いたい、組みたい」と言えば、だいたい実現します。
ただし、それが内輪受けでないこと。ここ重要!やりたいこと=「プロレスを広める行動」だったら――つまり独りよがりでなくお客さんがワクワクする試合なら、その対戦は実現します。
対戦カード作りは、私に課せられた大切な業務です。もちろん自分1人で決定しているわけではありません。ただ私は選手とフロントを兼任しているので、組み合わせを決めるほかの仲間に選手側の気持ち、団体の意向の両方を伝えることができる。
プロレスの興行は、例えるとコース料理みたいなものです。
食材が選手、調味料が技だとしたら、マッチメーカーはシェフかな。何一つ同じ料理が出てこないのも魅力。
ただし、感情のある食材なので、全てが思い通りにはいかないのです。
普段は極秘ですが、今回に限り対戦カードを決めるまでの過程を一部紹介します。内緒ですよ!
タッグ組んだ直後にタイトル戦で対決
まず、選手の体調を考えます。お客さんにはわざわざ言いませんが、程度の差はあれど、試合や練習で生傷が絶えません。もちろん体のメンテナンスを行ってはいますが、ダメージが残っていることもあるので、違和感や不安がある時は、負担の大きいシングル試合を外す場合があります。
次に話題性。
タイトルマッチや「因縁試合」は、かなり前から選手同士で火花が散っていて、私に「あの選手と対戦させてください」と選手が懇願してくる場合もあります。2つ返事で「いいよ」と言える時と言えない時があるけど、お互いの熱気が成熟したり、今がベストな時期と判断したら組みます。そのような試合は同業者からみても、やはり面白い。
私自身も過去に同日昼夜興行で、王者と挑戦者が逆のタイトルマッチでやり合い、流血。激戦の末、試合後は「友達になろう」とリング上で口約束。敬語を使ったら罰金500円を払う貯金箱を設置。貯まった頃には友達どころかリング外でも親友になり、「ベストフレンズ」というタッグ名で今も活動中です。私にとって最高にかみ合ったマッチメークでした。
また、「昨日は一緒にタッグを組んで、今日はシングルで激突」という対戦カードになる場合もあります。昨日今日どころか、8月9日に行った横浜武道館での大会で私は、セミファイナルでタッグを組んだ相手と、続け様にメインイベントでシングルのタイトルマッチをしました。気持ちの切り替えが出来た要因は目的があったこと。
「目の前の相手に勝つ。ベルト死守」
ただそれだけ。
逆に「この選手とだけは試合したくない」と言う人もいます。プロレスは「けんか」ではないので、そこに信頼関係がないと判断された場合、事故に繋がるので組まれないこともあります。でも選手が「やりたくない」という相手ほど、お客さんは見たいって言いますよね!
よく「プロレスには、シナリオや筋書きがあると言われますが本当?」って聞かれますが、人間が持っている喜怒哀楽をリングに反映させているので、その人の人生に嘘がなければ全てリアルです。
選手の感情や性格の把握が大切
プロレス会場がどこか――これも、対戦カード作りのポイントです。毎週定期的に開催する道場マッチなのか、一回だけのイベント大会なのか、大都市なのか地方なのか。さらにいえば体育館なのか屋外か、TPOを考慮します。
例えば、あまり女子プロレスの試合を見慣れない地方で開催する場合、体の大きい・小さいなど、見た目で分かりやすい組み合わせにすることもあります。私の地元、宮城県利府町で試合をした時は分かりやすく、日本人vs外国人を組んだりしました。
そして最後に、藤本つかさが考えるマッチメークの哲学とは。
これは難しいけど、サッカーに例えるとエースの澤穂希さんは、日本が優勝した2011年のW杯でPKを蹴らなかった。PK失敗のトラウマがある澤穂希さんの性格を考慮した、佐々木則夫監督の采配でした。人間には一人一人に性格がある。背番号10番を背負うと、力を発揮する性格の選手もいれば、プレッシャーで普段の半分も力を出せない選手もいる。補欠にされると反骨心を燃やす選手もいれば、腐るタイプの選手もいる。そう、私たちには感情や性格がある。機械とは違う。
プロレスも同じはず。プロレス団体のマッチメーカーはそういった「把握」が一番大切だと思う。
人に寄り添える人、向き合える人、把握力。
発想力があることを前提にすると、そんな人が向いてるのかなと思いました。
でも人間の感情は毎日違うから大変!
だから感情のぶつかり合いであるプロレスは面白いし、同じものはないんです。
さて、今週末の対戦カードどうしましょうかね。
宮城県利府町出身。利府町観光大使。
東北福祉大学卒業後、広告代理店に就職。上京後、芸能事務所にスカウトされる。プロレスを題材とした映画「スリーカウント」出演のため、2008年プロレス団体アイスリボンの練習に参加したところからプロレスラー人生が始まる。
2015年アイスリボン取締役選手代表就任。18年には東京スポーツ新聞社制定女子プロレス大賞受賞。21年8月23日デビュー13周年を迎える。
【アイスリボン公式YouTube】
https://youtube.com/user/iceribbon
【藤本つかさ公式YouTube】
https://youtube.com/channel/UC_V0vfhOMxE9bCVvxjJ9JBw