向田邦子さん没後40年も人気続く 大手書店には特集コーナー
作家、脚本家、エッセイストとして大活躍していた向田邦子さんが、台湾の飛行機事故で亡くなって40年になる。あまりにも突然の死だったが、作品は今も売れ続け、人気が衰えない。テレビや雑誌で向田さんをしのぶ企画も目立っている。
「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」
NHKは2021年8月13日、「向田邦子さん 没後40年 雑誌や書籍の出版相次ぎ関心高まる」というニュースを報じた。「脚本家で直木賞作家の向田邦子さんが、航空機事故で亡くなって今月22日でちょうど40年です。これを前に特集記事を掲載した雑誌やエッセーをまとめた書籍などの出版が相次ぎ、改めて向田さんの生み出した作品への関心が高まっています」と、最近の動きを紹介している。大手書店では特集コーナーも設けられているという。
向田さんは1929年生まれ。ホームドラマ作品の脚本家として、「だいこんの花」「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」といった多数の高視聴率作品を生み出し、テレビ業界で引っ張りだこだった。作家としては80年、『花の名前』などで第83回直木賞受賞。『父の詫び状』などのエッセイもロングセラーになったが、1981年8月22日、台湾取材旅行に起きた遠東航空機墜落事故で急逝した。
「大人の女性」だった
関連本の中では昨年刊行の『向田邦子ベスト・エッセイ 』(ちくま文庫・向田和子編)の売れ行きが好調だ。向田さんの随筆の中から、家族、食、旅、仕事など、テーマ別に50篇を精選した一冊だ。すでに15刷、累計発行部数は7万部を超えている。
向田さんの末妹のエッセイスト、向田和子さんが、家族、食、私、仕事のことから処世術などに関する名エッセイを厳選している。
8月12日の日経新聞には、『字のないはがき』(小学館)の書籍広告が大きく掲載されていた。同書は、向田邦子さんの名作を、直木賞受賞作家である角田光代さんが文章、西加奈子さんが絵を担当して絵本にしている。19年に発売され、20年には「第1回「親子で読んでほしい絵本大賞」に選ばれている。
同書に関わった角田さんは向田さんの熱烈なファン。今年1月19日には朝日新聞で、「向田さんは51歳で亡くなり、もう自分の方が年上になったのに、やっぱりずっと大人の人だと思うのはなぜだろう。例えば太宰治なら、自分がすごく若い時は大人だなと思っていたけれど、年を追い抜いて時間が経つと、太宰はすごく若かった、未熟だったんだなと。でも向田邦子は、いつまでたっても大人の女性だという気がしますね」と語っている。
根っからの悪人が出てこない
このほか、新潮文庫からは 3 月に向田作品の全ドラマ・エッセイ・小説作品から名言、名ゼリフをセレクトした『少しぐらいの?は大目に ――向田邦子の言葉』が刊行されている。また、ちくま文庫では 7 月に向田和子編によるシナリオ集『向田邦子シナリオ集 ――昭和の人間ドラマ』も出た。デイリー新潮も8月12日、「飛行機事故死・向田邦子さん 『神はあまりにむごい』 卓越した筆の力で今なお多くの人を魅了」という向田さんをしのぶ記事を載せている。
J-CASTトレンド「コラム放牧民」では昨年7月1日、テレビ界の大御所プロデューサーの石井ふく子さんが「週刊現代」で向田さんの思い出を記したコラムを紹介した。
向田さんと何本ものドラマをつくった石井さんは、向田作品の魅力は何だったのかとよく聞かれるそうだ。「一言では言い表せませんが、私は根っからの悪人が出てこないところが好きでした。やさしくて純粋な方でしたから、悪人なんて書きたくもなかったのかもしれません」と綴っている。
向田さんが急逝してから、向田さんを超えるような、幅広い世代に愛読される女性エッセイストは登場していないといわれる。没後40年、多くのファンにとって「永遠の向田ロス」(「コラム遊牧民」の筆者、富永格さんによる)は今も続いている。