熊本・南阿蘇に元気注入!丸野石油店 北海道からもファンが来る「愛される理由」
熊本県南阿蘇村。2021年3月7日に架け替えられた「新阿蘇大橋」近くの国道57号沿いに、丸野石油店はある。16年4月に起きた熊本地震によって阿蘇大橋が崩落し、国道57号も大きなダメージを負ったため、周辺地域に「被災地」の印象を持つ人は少なくないだろう。
丸野石油店は、復興が進み、以前の姿を取り戻した国道を通って来店する車に日々、サービスを提供している。同店のツイッターは南阿蘇村、ひいては熊本県にエネルギーを注入し、元気で「満ターン!」にする地域振興型だ。
アカウント名に「南阿蘇」と入れる理由
【南阿蘇の丸野石油店】店の営業に関わるお知らせや、地域情報を中心に発信。給油に立ち寄ったユーザーの報告ツイートを探して見つけ、引用リツイートで感謝を伝えるなど交流ツールとしても活用している。2019年1月に現担当者がアカウント開設し、現在も運用中。
ツイッター担当者は普段は店長として、来店客の対応や工事現場への燃料運搬と、さまざまな業務をこなす。
家業を継ぐ形で働き始めたのは2018年夏頃だ。それまでは総合健康関連事業を手がける、えがお(熊本市)で社長秘書を務めていた。経営者を間近で支え、仕事ぶりを見聞きしてきた経験が生きているという。ツイッターは、友人に「SNSやってみたら?」と勧められて始めた。その際、面白い取り組みをしている地元の企業公式アカウントとして参考にするようにと紹介されたのが、熊本タクシー(熊本市)だった。本連載6回目で取り上げている。
丸野家親族4人で営業しているため、店とはまさに一蓮托生。どういう人間が店に立っているのかを知らせた方が、利用者に安心してもらえるのではと考え、19年4、5月頃からツイッター上で顔を出すようにした。「阿蘇は、近隣地域と比べてガソリンが高い。たった1円の差で選ばれないこともあるシビアな業界で、店に来てもらうにはどうすればいいかを必死に考えた」結果だという。
「今ではありがたいことに、毎週のようにご来店くださるフォロワーさんも増えてきました。熊本旅行のついでに、と北海道から来て給油してくれた人もいました。『地方にしか店舗がないから、ツイッターをやっても意味がない』とは思いません。住まいから近い、というだけでも興味をもってくれる人がいるので」
そのため、アカウント名には当初から「南阿蘇の~」と入れ、意識的に地元ユーザーにアピールする工夫をしていた。ご当地情報を自然と発信でき、フォロワーと「ご当地あるある」で盛り上がれるため、コミュニケーションや地域振興に役立っていると感じているそうだ。
つらい状況を逆手に
担当者が丸野石油店に勤務した当初、熊本地震により阿蘇大橋は崩落、国道57号が大きな被害を受けて店の前で通行止めになっていた。初めてその景色を見たときは「絶望した」。
しかし、絶望するだけにとどまらなかった。19年5月16日に「目の前で警備員さんが車をUターンさせてるから!Uターンじゃなくてガソリン満ターンにしてください。ってやかましわ!!」と、来店を促しつつ渾身の自虐ネタを投じた。すると大反響を呼び、当時500ほどだったフォロワー数が1000弱に倍増。
さらに、このツイートが歌詞の元になった「丸野石油店オリジナルのラップ曲」とそのPVまで出来上がった。中学の頃からラップが好きで、「ゆくゆくは歌にしたい」と考えていたところ、図らずも地元バンドの助力が得られたおかげだという。
「何でも『大変です、きつい』とツイートすれば、応援してもらえます。でも大体、一過性で終わってしまう。興味を持ち続けてもらうためには、つらい状況を逆手に取ったり、ひとひねり加えたりして『大変だけど、前向きに頑張っています!』と明るく、面白く伝えるのが大事だと思います」
「情報発信」は自店にとどまらない。アカウントを持たない近隣店の宣伝や、店とは直接関係のない地域情報や復興情報もしばしば投じている。「自分は要領の良い人間ではなく、周りに助けられることが多い。その感謝の気持ちを忘れず、地域に還元したい」という思いが根底にあるという。