IOCバッハ会長は貴族ではない 「ぼったくり男爵」と言われた男の真の姿
東京五輪を目前に控え、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が2021年7月8日に来日する。米国メディアから「ぼったくり男爵」とまで揶揄されたバッハ会長。実際のところ、何をしている人で、どれくらいの報酬なのだろうか。
フェンシングで金メダル
IOCは2015年4月2日、役員報酬の詳細を初めて公表している。AFPが報じたところによると、13年から会長を務めるトーマス・バッハ氏は年間22万5000ユーロ(約2900万円)。
4人のIOC副会長を含む計14人の理事には、会議や公務で出張する際に日当900ドル(約11万円)が支払われる。他の委員は日当450ドル(約5万5000円)。
IOCの倫理委員会は当時、「全面的な透明性を確保するために」、計102人の委員と計35人の名誉委員に対する報酬について公表したと述べていた。
「ぼったくり男爵」と名指しされたバッハ会長は、実は貴族ではない。もともとは独のフェンシングの選手。1976年のモントリオールオリンピックではフルーレ団体で金メダルを獲得している。のちに弁護士となり、著名企業シーメンスの相談役などを務めていた。貴族ではないが、西欧社会のエスタブリッシュメントの一人であることは間違いない。
5人が爵位を持つ
文春オンラインは6月21日、バッハ会長の独での評判を報じている。それによると、シーメンスから年間40万ユーロ(約5300万円)の顧問契約料のほかに「日当」として1日に5000ユーロ(約66万円)を得ていた。シーメンスの監査役会は、年間契約料が高額である場合、日当が追加で支払われるのは「まったく一般的ではない」として高額報酬を問題視。2010年に契約が打ち切られたという。
ドイツでバッハ会長といえば、「桁違いの報酬の人」というイメージで、よく言えば「やり手のビジネスマン」、悪く言えば「お金に汚い」と思われている、と文春オンライン。
IOCの幹部はしばしば「五輪貴族」と呼ばれる。会長に「貴族」が多いからだ。第2 代(1896-1925)のクーベルタンは男爵、第3代(1925-42)のアンリ・ド・バイエ=ラトゥールは伯爵、第6代(1972-80)のマイケル・モリス・キラニンは男爵、7代(1980-2001)のフアン・アントニオ・サマランチは侯爵、8代(2001-13)のジャック・ロゲは伯爵。歴代9人の会長のうち5人が爵位を持っている。
名誉もカネも
近代五輪はもともと、裕福な人たちによって支えられていたという。五輪に詳しいスポーツジャーナリスト、小川勝さんの『東京オリンピック』(集英社新書)によると、五輪の骨格を作ったことで名高いクーベルタンは事務局経費や祝典費用を個人で負担し、在職中に事実上破綻していたという。6月30日の朝日新聞も、「委員活動費は創設当初は自腹だったので、メンバーは裕福な層に限られていた」と書いている。
ところが、五輪が巨大化する中で、「貴族」との関係も変質していく。テレビの放送権料やスポンサー企業の協賛金が潤沢に入るようになり、「五輪貴族」は名誉とカネの両方を手にする立場になった。今回の五輪騒動を通じて、多くの人が商業主義にまみれた五輪の現実を知ることになる。
五輪は「平和の祭典」とも言われる。実際、1948年、戦後最初のロンドン五輪には日本と独は参加を認められなかった。
今回来日するバッハ会長は被爆地の広島を、IOC東京大会調整委員会のジョン・コーツ委員長は長崎を訪問する予定だという。「五輪やスポーツを通じた平和への取り組みを訴えるとみられる」(読売新聞)。
ネットではさっそく「ファーストクラスで来日し、5つ星ホテルのスイートに泊まり、接待され、パフォーマンスで広島長崎なんでしょうね」という冷めたコメントが出ている。