東京五輪「安全・安全」の根拠どこに 山口香さん今度はニューズウィークで持論

   コロナ禍で東京五輪を開催することについて、元五輪メダリストでJOC(日本オリンピック委員会)委員でもある山口香さんが「ニューズウィーク」で、「今回の五輪は危険でアンフェア」と持論を語っている。201年6月8日、インターネットで内容が公開されている。

   山口さんは5月にも、共同通信の取材に「東京五輪に意義はない」と発言していた。

東京五輪開幕まで、あと1か月半
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「危険だけどやります」

   開幕まで50日を切り、「五輪はきっと開催されると思う」というのが現在の山口さんの見通しだ。インタビュアーは西村カリン(仏リベラシオン紙東京特派員)さん。

「でも開催にあたっては、『今回のオリンピッは安全じゃなくて、危険です』から入ったほうがいい」
「危険だからこういう点に気を付けてください、安全を確認しながら少しずつ進んで今回は乗り切りましょう、と」

   国民に不安や疑問があるのに、政府やJOCは「安心・安全」と言い続けるだけ。「安心・安全」の根拠はいっこうに示されない。山口さんは、もはや五輪を中止するという選択肢がほぼなくなっている以上、むしろ考え方を逆転させるべきだと提案する。「危険だけどやります。気を付けてください」というスタンスに切り替えるべきだ、と。

   五輪に参加する選手の80%がワクチンを接種してくるので大丈夫、とも言われている。だが、「(未接種者)20%というのは少なくない数字で、関係者や記者の接種率はさらに低くなると思う。となると、やはり危険はある」と見る。

日本選手に「アドバンテージ」

   「アンフェア」なことについても強調している。例えば海外の選手は、来日後に日本人と自由に接触できない。通常なら開催国の選手と練習したりするわけだが、それができない状態になる。自国から練習相手を連れてくるのも簡単ではない。来日選手の人数は制約を受けている。本来なら早めに来日し、日本との時差や気候に慣れたいところだが、日本国内での事前合宿をキャンセルされているチームもたくさんある。

   「でも日本人選手は通常の練習や準備をしてから、本番を迎えられる。『ホスト国のアドバンテージ』となるかもしれないが、そういうアンフェアなことがあちこちに出てくる」と山口さんは見る。

   たしかに、五輪レースコースで5月5日に行われた札幌ハーフマラソンなどはその一例だろう。日本は代表4人が走り、コースを確かめることが出来たが、自国でマラソン代表に決まっている海外選手の参加は2人だけだった。

   このほかワクチンの影響も懸念される。というのも、接種後に高熱が出たり、だるさを訴えたりする副反応がかなりの確率で発生することが分かっているからだ。高齢者より若者の方が出やすいといわれている。早めに接種した選手と、直前に打つ選手とでは体調に差が出かねない。選手やコーチにとっては不安材料だ。団体競技の場合、万一、選手団の中から感染者が出た場合、あるいはクラスターが起きた場合、チームがどうなるのかどうなるのかなども心配の種だ。

究極の「アウェー五輪」に

   つまり、様々な「リスク」と「アンフェア」の集合体が、今回の東京五輪だ。「安心」できず、「安全」でもない。

   日本人観客は受け入れることにした場合、さらに異様な光景となる。日本選手と海外選手が戦う競技に、日本人の観客しかいない状態が想定される。「ホストアドバンテージ」の最たるものだ。海外選手にとっては、究極の「アウェー五輪」になりかねない。友好を重視する「平和の祭典」とはほど遠いものになる。

   もちろん「おもてなし」もできない。当初、東京五輪誘致の時に高く掲げられた理念が大きく揺らいだ状態での開催となる。ボランティアのPCR検査も不透明なままだ。選手との格差が想定されている。これもアンフェアの一例だ。学校の部活は禁止なのに、なぜオリンピックだけ、と思う子どもたちもいるかもしれない。何よりもコロナ禍の最前線で、命を削りながら奮闘する医療関係者にとっては、言いようのない違和感が募る。様々な「アンフェア」を大量に抱え込みながらの開催突入となる。

   「それはオリンピックにとってもアスリートにとっても国民にとっても、不幸なことです」と山口さん。

議論や質問は封印

   JOC委員でありながら辛口発言を続けている山口さん。一般の人からメールで批判を受けたり、SNSで書かれたりすることはあるが、JOCの中で面と向かって意見する人はいないのだという。つまり、JOCでは議論が封印されている。

   最近も朝日新聞の記者がコラムで書いていた。バレーボール男子日本代表のオンライン記者会見で、日本協会の広報担当者から、「東京五輪開催」と、「ワクチンの接種」をどう考えるかについては質問を禁じられたそうだ。公的な会見で、五輪について発言できない環境の中に選手たちはいる。

   山口さんは語っている。

「若い世代にそこに気付いてほしい。若い人たちがこの国を変えなきゃ。議論できる国にしなきゃ。スポーツの世界でも、若い人たちがもっと意見を言って、『こうやっていきましょう』というムーブメントが起きる未来に期待したい」

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