東京五輪「73億円アプリ」まだ諦めてない 海外観客受け入れ断念で使い道あいまい

   東京オリンピック・パラリンピックに向けて政府が開発を進める「統合型入国者健康情報等管理システム」(以下、オリパラアプリ)の行く末が不透明だ。海外からの観戦客や大会関係者らに向けて、査証や検疫といった入国に関わる手続き管理を目的としてきた。

   開発や保守運用に発生する金額は、総額で約73億円。だが、五輪は海外からの観客の受け入れを断念した。それでも、アプリの開発そのものをストップしたわけではないようだ。

東京五輪は開催が迫っているが
新型コロナウイルス対策アプリではすでに「COCOA」が存在する
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インバウンド向け「やらない」のか

   平井卓也デジタル改革担当相は、海外観客の受け入れ中止に伴い、不要となる機能を整理し、開発委託先と契約の変更について調整中だと2021年4月16日の記者会見で語った。査証申請や観客の入場時における顔認証といった機能が削減の対象となる。また、約73億円という契約金もまだ支払いはしておらず、金額は「精査」中だとした。

    4月13日の会見では、今後のインバウンド対策や税関の手続きの簡素化などに向けて、アプリ向けに開発中のシステムを活用できるとの考えを示していた。

   5月21日の衆院厚生労働委員会で、内閣官房の担当者はこれと同様の説明を行い、6月中にシステムを稼働させるために準備を進めているとした。これに立憲民主党の尾辻かな子衆院議員は、政府で「ワクチンパスポート」に関する検討が開始されたことに触れ、「インバウンド向けはもうやらないということでよろしいですか」と質問した。

   内閣官房の担当者は「やらない」と決定したわけではないと話し、今後「水際対策」としてどのようにアプリを活用していくかを検討中だと答えた。

   尾辻議員は「(アプリの)使い道がなくなっている」とコメント。同日夜には自身のツイッター上で「ワクチンパスポート開発が始まったことで、オリパラアプリ開発はやめるのではないか」との推測を示した。

   ワクチンパスポートは、新型コロナウイルスワクチン接種者が自身の接種歴を証明できる制度。政府はパスポートの発行について、今後検討を行う方針だ。

COCOAや予約システムでは不具合

   アプリは、東京五輪で海外からやって来る人たちの入国手続きに役立てられるはずだった。観客受け入れ中止が決まり、本来の目的を失った今も、巨額の資金を投じて開発を続ける意味はどこにあるのか。

   ITジャーナリストの井上トシユキ氏はJ-CASTトレンドの取材に対し、今後の開発の中止は「あり得る」と指摘する。大会の開始は7月。直前の今の時期に予算と機能について検討や調整を行っているということは、アプリの開発は実態としては停滞しており、政府は開発中止も視野に入れているのではないかと推測した。

   オリパラアプリの必要性については「最初からいらないと思っています」。すでに類似したシステムとして接触通知アプリの「COCOA」が存在する。大会中の新型コロナウイルス陽性者の接触確認や感染対策として新たにアプリを作るのではなく、COCOAをしっかりと運用すればよいとの考えだ。

   感染対策をめぐって開発されてきたシステムにはオリパラアプリのほか、COCOAや「大規模接種センター」の予約システムがある。ただ、いずれも不具合の報告が続出している。政府主導のシステムでなぜこのような問題が発生するのか。井上氏は、厚生労働省といった発注側が「よくシステム開発のことをわかっていない」ことが原因だと指摘する。

   システム開発にあたり、通常は何のために開発するか大きな目標を定め、具体的な指標を決めていく。政府主導のシステムでは、こうした目標設定が曖昧なまま開発が行われているのではないかと推測した。特にオリパラアプリについては大会自体が開催されるかも不透明な部分があり、アプリ開発の目標設定に影響が出ているのではないかと述べた。

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