看護師たちは「コロナ」にどう対応したか 162人の渾身の現場報告まとまる
コロナ禍で奮闘を続けているのが医療従事者だ。中でも患者と日常的に至近距離で接する看護師の負担は重い。個別の体験談はしばしばメディアで紹介されているが、このほど『新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート』(日本看護協会出版会編集部 編)が刊行された。海外も含め162人の看護師が登場する。700ページを超える大著だ。
貴重な現場報告
テーマや施設別に看護師たちの貴重な現場体験記が掲載されている。新型コロナウイルスの襲来から、第3波が来る2020年12月までの約1年間にわたる、医療・ケア現場の様子と日々の暮らしを綴ったレポートだ。
〇「ダイヤモンド・プリンセス号」
・ダイヤモンド・プリンセス号船内の感染制御活動の記録
・開院前の医療施設におけるクルーズ船感染者の受け入れ
・市中の小規模病院におけるクルーズ船感染者の受け入れ――看護の視点から
〇「クラスターを乗り越えて
・COVID-19 専門病棟の看護管理を体験して
・クラスターはなぜ発生し、どう対応したか
・院内感染がもたらす影響――精神科病院でのクラスター事例
・障害者支援施設における新型コロナウイルス集団感染の記録
・クラスター発生の社会福祉施設での活動
〇「感染症指定医療機関」
・感染しない、させない 職員の安全を守る感染対策
・特殊任務看護師チームとして質の高いクリティカルケアの提供を目指す
・COVID-19 患者の受け入れと一般診療の両立
このほか、「感染者受け入れ医療機関」「分娩取り扱い医療機関」「軽症者宿泊療養施設」「保健所」「帰国者・接触者相談センター」「高齢者施設」「訪問看護ステーション」など詳細にして多種多様な報告が続く。
野戦病院のような感染症病棟
特に目を引くのは、「海外で活躍する看護職」の部分だ。以下のような報告が並んでいる。
・看護チームで嗅覚・味覚異常の定量試験などを実施
・"We must be strong !"と自分たちに言い聞かせる医師
・インドとミャンマーにおけるCOVID-19 拡大の状況と対応
・活躍するブラジルの看護師
・「悪夢よ、覚めてくれ」と日々祈るしかできない医療者-ボリビアにおける感染症の現状と対応
・地球の反対側にいる仲間といつかまた抱擁を─パラグアイでの活動を振り返る
・父上・母上様、野戦病院のような感染症病棟で働くことになりました。
日本看護協会出版部刊なので、全体として専門的な知見に基づく体験記が中心になっている。しかし、「私の『コロナ日記』」では、医療従事者としての使命感、未知のウイルスへの恐怖心、差別・偏見に対する怒りや悲しみ、大切な人への思いなど、看護職であり生活者でもある看護師たちの体験も報告されている。
現在も各種医療機関や関連施設で奮闘する看護師ら医療関係者だけでなく、これから看護師を目指す人、取材するメディア側にとっても、大いに参考になる内容だ。価格は2860円(税込み)。
『ナース発 東日本大震災レポート』も刊行
ちなみに本書は当初予定よりも大幅に厚くなったという。その理由を編集部が説明している。
まず編集部員全員(21人)と営業担当に声をかけ、執筆者候補を募集したところ、200人以上に膨れ上がり、絞り込むのに苦労した。届いた原稿はどれも想定枚数をオーバーしていたが、どれも「伝えたい」という思いにあふれており、圧縮が難しかった。しかも、企画立案から制作まで、半年前後の間に、コロナにまつわる状況が次々に変化し、第2波、第3波と終わりの見えない中で、新たに執筆項目を増やすなどしていくうちに、掲載したい内容がどんどん増えていった。
ここまできたら、もういっそのこと、超ぶ厚くなったほうがインパクトがあって目立つよ!」ということで、開き直り、700ページを超えてしまったという。
日本看護協会出版会編集部は2011年9月、東日本大震災の被災地域の看護職と、支援に赴いた看護ボランティア、被災地の患者・住民を受け入れた施設など、さまざまな立場の看護職183人による活動記録『ナース発 東日本大震災レポート』も刊行している。