原発事故の地元で「再生エネルギー」に挑戦 『魂の発電所 負けねど福島』出版
東日本大震災関連本が目立っているが、新たに東京新聞経済部長の池尾伸一さんが『魂の発電所 負けねど福島――オレたちの再エネ十年物語』(徳間書店)を刊行した。原発事故で住む場所と働く場を奪われ、地域のコミュニティや誇りさえも失いそうになりながらも、奮闘する人々を描く。
「地域の電力づくり」に焦点
「復興」に奮闘する被災地の姿は、多くのメディアが取り上げているが、本書がユニークなのは、「地域電力づくり」に焦点を合わせていることだ。
福島原発の事故で奪われた日常を、地元福島が誇る豊かな自然の力による発電で取り戻そう――もはや原発ではなく、「再生可能エネルギー」による地産地消の電力会社づくりに挑戦する人々の物語だ。
さまざまな人が集まった。放射能汚染で牛の肥育ができなくなった飯舘村の和牛農家。江戸時代から続く家業が風評で廃業に瀕した喜多方の造り酒屋当主。単身赴任先から妻の実家に帰省中に被災した外資系サラリーマン。元居酒屋店主、有機農家、温泉街の顔役、日本最奥にある出版社代表など、これまで電力会社とは縁もゆかりもなかった人々だ。
彼らの小さな発電所は、大手電力に先駆けて「2050年温暖化ガスゼロ」実現という大きな希望を掲げる。しかし、様々な障壁にも直面する・・・。
東京新聞記者の意欲作続く
著者の池尾さんは1965年生まれ。89年、早稲田大学政経学部を卒業後、中日新聞(東京新聞)入社。90年代は主に経済部で金融危機取材を担当。2005~08年、ニューヨーク特派員。エネルギーや雇用問題の担当記者などの経験もある。20年8月より現職。著書に『ルポ米国発ブログ革命』(集英社新書)、『人びとの戦後経済秘史』(岩波書店)など。19年に東京新聞連載の「働き方改革の死角」の取材班として「貧困ジャーナリズム賞」を受賞している。
本書は、電力の素人集団が原発事故に奪われたふるさとを取り戻すために歩んだ苦闘と希望の日々、その人間ドラマをノンフィクションとして伝えている。
東京の記者は原発関係の本を次々と出版している。片山夏子記者は昨年、『ふくしま原発作業員日誌――イチエフの真実、9年間の記録』(朝日新聞出版)を出した。すでに本田靖春ノンフィクション賞を受賞するなど各方面で高い評価を得ている。今年に入ってからは、榊原崇仁記者が長期取材をもとに『福島が沈黙した日――原発事故と甲状腺被ばく」(集英社新書)を出版した。いずれもJ-CASTで紹介済みだ。
『魂の発電所 負けねど福島』は3月1日発売。価格は1700円+税。