ポスト・コロナ、「時代の大戦略」を知る

■『大戦略論』(著・ジョン・ルイス・ギャディス 早川書房)


   2021年に入ってもコロナ一色だ。ただ、去年とは異なり、緊急事態宣言の解除も見通せる状況となり、切り札となるワクチン接種がはじまった。その後の世界的一大イベント、東京オリンピック・パラリンピックが間近になる中で、ポスト・コロナの議論も活発化していくだろう。自分の100年の人生の中で、歴史的転換点にあると言える年となるのではないだろうか。

   こんな思いのときに、知人から勧められた本が、本書である。まさに、時代の大戦略を論じるものだ。

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大学の講義感覚

   本書は、ペルシャ戦争からローマ帝国の攻防、大航海時代に、米国独立戦争・南北戦争、ナポレオンと、世界史の転換点となった主に戦争における戦略論を、指導者のおかれた状況とその中で下される判断を俯瞰的に論じている。

   米国海軍大学校の中堅将校が受講する講義や、イエール大学の学部生、大学院生、現役軍人が受講するセミナーの内容をまとめたものであり、大学の講義感覚で入りやすい。この中で、大戦略、グランドストラテジーを「無限に大きくなりえる願望と必然的に有限である能力をあわせること」すなわち「バランスを取る」ことと広く定義し、歴史的事例と歴史的、文学的、哲学的洞察を最大限活用することによって大戦略の本質を物語調で分かりやすく説明している。

   大戦略の要諦も、「キツネとハリネズミ」という整理でシンプルにまとめている。すなわち、フィリップ・テドロックが指摘するように、「人間は、キツネとハリネズミのやり方をうまく組み合わせて種として生き延びてきた」とする。「キツネの方が、変化の早い環境で生き延びるのに適している。そうした環境では不適切なアイデアを捨てられる人が有利になるからだ。ハリネズミは、長年にわたって実証済みのやり方がうまくいく環境で生き残るのに適している」。端的に言えば、どれほど高いところにいても常識を忘れるなという教訓に集約される。このシンプルな大戦略論に基づいて、歴史上の大人物を大胆に切っていく。

普遍的な戦略論

   ペルシャ王クセルクセスは野心を抑えられなかった。アテネのペリクレスは寛容から抑圧に変わり、アテネ市民はそれに染まった。ローマ帝国をパクスロマーナに導いたオクタビアヌスは自制心を自らに身に付け、三頭政治で敗れたアントニウスはそれを忘れて自滅した。大航海時代のスペイン王フェリペと大英帝国を築いたエリザベスはそれぞれを使って新世界を経営した。ナポレオンは願望と能力を混同して帝国を失い、その過ちを犯さなかったリンカーンは国を救った。といった具合だ。こうした評価を乱暴に下すのではなく、背景解説がクリアで、かつ、面白い。とりわけ、リンカーンがかっこいい。

   戦争や革命の局面に限らず、そして、君主に限らない普遍的な戦略論があるように思う。一役人としても心にしなければならない要素が多い。年の初め、そして、歴史の転換点において、一読をお勧めしたい。

経済官庁 吉右衛門

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