半藤一利さんの追悼ムックや最期の著作 文藝春秋から連続刊行
2021年1月21日に亡くなった作家で昭和史研究家、半藤一利さんの関連本が、ゆかりの文藝春秋から次々と出版される。追悼ムック『半藤一利の昭和史』が2月17日、半藤さんの最期の著作となる随筆集『歴史探偵 忘れ残りの記』(文春新書)が2月19日。それらに先立ち、2月10日発売の月刊誌「文藝春秋」では、半藤さんが著した絶筆原稿の写真が公開される。
なぜ日本は道を誤ったか
ムック『半藤一利の昭和史』では、半藤さんが「文藝春秋」2008年2月号に寄稿した「なぜ明治は勝利し昭和は敗れたのか」が再録される。原稿用紙で60枚近い力作だ。
昭和天皇と明治天皇の時代を比較し、なぜ日露戦争に勝利した日本が、太平洋戦争で大敗を喫したのか、伊藤博文、小村寿太郎ら「チーム明治」が率いた明治と、東條英機、近衛文麿らが道を誤った昭和の違いを、時代を超えたリーダー論としも説いている。
このほか、多数の有識者による特別寄稿「半藤さんから受けとったもの」や、歴史学者の磯田道史さんとの対話、さらには、東京大学教養学部、立花隆ゼミの学生たちとの対話「東大生が半藤さんに聞いた昭和の歴史」なども。
珍しいところでは、朝日新聞社の倉庫に眠っていた約7万枚の戦前の写真から半藤さんが精査した盧溝橋事件、上海炎上、南京陥落、三国同盟締結、南部仏印進駐、広島原爆など、昭和史の決定的瞬間が、半藤さんの解説付きで掲載されている。
司馬さんが描けなかった昭和に踏み込む
『歴史探偵 忘れ残りの記』は2月刊行を前に、昨年末から年明けにかけて半藤さんが最期までゲラに目を通していた書籍。
1999年から2020年まで、文藝春秋営業部が書店向けに配布していたパンフレット「新刊のお知らせ」の巻頭に掲載されていたコラムを中心に編集されたもの。軽妙洒脱で視野の広い半藤さんの人柄と足跡が偲ばれる内容となっている。
「わたくしは、ゴルフもやらず、車の運転もせず、旅行の楽しみもなく......ただただ昭和史と太平洋戦争の"事実"を探偵することに若いころから妙にのめりこんできて、一人でコツコツと続けて、いつの間にか九十歳の老耄(おいぼ)れとなってしまった」と「あとがき」に記している。
半藤さんは東京大学文学部卒。文藝春秋入社後、「週刊文春」、「文藝春秋」、「くりま」編集長などを歴任。専務取締役、常任顧問を経て退社。『ノモンハンの夏』で山本七平賞、『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、『昭和史』で毎日出版文化賞特別賞。ほか著書多数。2015年には菊池寛賞を受賞した。
日本の近現代史を一般読者にもわかりやすい形で示した作家としては、司馬遼太郎さんが有名だが、司馬さんは、「昭和」についてはほとんど書かなかった。これに対し、半藤さんは、司馬さんが描き切れなかった戦前の「昭和」にこだわり、同世代や戦後世代にその真実を伝えることに心血を注いだ。
J-CASTでは半藤さんの最近の著書、『なぜ必敗の戦争を始めたのか』(文春新書)、『歴史と戦争』 (幻冬舎新書)などを紹介済みだ。