マンガソムリエ激推し!2021年にブームが来るマンガはこれだ
2021-01-01 12:00:00
【識者が大予想!2021年】
新型コロナウイルスが、生活や意識を大きく様変わりさせた2020年。外出自粛で多くの人が自宅で過ごす時間が増えるなか、場所を選ばず楽しめる娯楽のひとつが「漫画」だ。
感染への恐怖や、家族や友人との関係性の深まり、あるいは分断など、コロナ禍がもたらした意識変化は、漫画の需要にどう影響を与えているのか。蔵書1万2000冊を誇る「マンガソムリエ」の兎来栄寿(とらいえいす)さんに、2021年に注目を集める漫画のジャンルと作品を予想してもらった。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・藤原綾香)
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母への愛情がゆえに「遺骨を食べたい」
――ずばり、兎来さんが考える「人気が出そうなジャンル」とは。
兎来 「それまでの日常が失われた中で強く生きる人間を描いたもの」です。コロナ禍によって私たちの日常は大きく変わり、以前の日常を描いた作品は今や「フィクション感」を際立たせるものになってしまいました。そのため、「今までの日常から大きく変わってしまう物語」に、そして「変わってしまった世界の中でも必死に強く優しく生きる人間の姿」に共感が生まれる時勢かな、と思います。
――具体的な作品名を挙げるなら。
兎来 3つあります。1つ目は「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」(作者:宮川サトシ)。33歳で母を亡くしたギャグ漫画家が、自身の体験をもとに描いたエッセイです。「母親を亡くした瞬間は、どう生きていいか途方に暮れた」主人公が、最終的には母親が遺してくれたものに気づき、「生きなければいけない」と前向きに変わっていく姿に胸を打たれます。
――「遺骨を食べたい」とは、インパクトのあるタイトルですね。
兎来 火葬場で、骨壺に入らなかった母の遺骨が係員に引き上げられるのを見て、作者は「自分の身体の一部にしたい」と願います。母への愛情がゆえに湧きあがった感情だと思います。母を亡くした人は共感できる内容ですし、まだ生きている人にとっては、いざ亡くなったとき「どんなことが困るか」、「どんな変化が起きるのか」など、将来を想像する機会になるのではないでしょうか。
20年経っても色あせない、漫画史に残る名作「7SEEDS」
――他にはどんな作品がありますか。
兎来 東日本大震災後の福島に生きる高校生たちにスポットを当てたオムニバス作品「はじまりのはる」(作者:端野洋子)です。「原発事故による放射能汚染」という目に見えない恐ろしいものに対し、子どもから大人まで全員がマスクをして備えているシーンは、昨今の光景と重なるものがあります。現地に住む人々への心ないネットの痛罵なども、新型コロナウイルス感染者への差別的な言動を思わせます。「人間は繰り返す生き物だ」と暗に知らしめられます。
――結末は俗にいう「バッドエンド」なのでしょうか。
兎来 いえ、読後は「誰にでもできることはある。自分も頑張ろう」と勇気づけられる作品です。例えば、放射能汚染でキノコの風評被害を受け、致命的な被害をこうむったシイタケ農家の高校生の話。故郷再生のために「自分に何ができるのか」と考え、キノコの研究をすべく東京大学理科二類を目指す姿が印象的ですね。
――3つ目のおすすめ作品はなんでしょうか。
兎来 近未来SFサバイバルストーリー「7SEEDS」(作者:田村由美)です。約20年前に生まれた作品ですが、まったく色あせません。「少女漫画」なので恋愛要素はあるものの、それがメインというわけではなく、35巻通して濃厚な人間群像劇が描かれています。テーマや設定だけでも魅力的な漫画史に残る名作なので、男性にもぜひ読んでほしいです。
――あらすじを教えてください。
兎来 舞台は「巨大隕石が地球に衝突した後の未来」です。人類の種を残すべく、政府は才能ある若い男女を選抜し、春、夏のA、夏のB、秋、冬という5つのチームを作って冷凍保存する「7SEEDS」計画を講じました。やがて未来で目覚めた若者たちが、過酷な環境下で必死に生き延びようとする、という話です。ほとんどのキャラクターが訳も分からないまま極限状態に置かれるのですが、夏のAチームだけは最初から「地球の滅び」を知らされているエリート集団。立場の違いからさまざまな衝突が起きるのですが、「希望」のある結末です。
○プロフィール
兎来栄寿(とらい・えいす)
10歳の頃から神保町やまんだらけに通い詰め、ジャンプ作品からトキワ荘・大泉サロン作家まで読み漁っていた生粋の漫画愛好家。少年青年少女漫画からBL・百合まであらゆるジャンルを愛する。漫画を読むのは呼吸と同じ。自分を育ててくれた漫画文化に少しでも恩返しすべく、日々様々な作品の「布教活動」を行うマンガソムリエ。