カミュの『ペスト』漫画版も人気 宝島社、新潮社、幻冬舎などから出版続く

   コロナ禍でカミュの名作『ペスト』が注目されている。特に目立つのが、わかりやすい漫画版の出版だ。原作は長編なので、読むのに骨が折れる。手軽に概要を理解したい人にとって、漫画版は大助かりだ。出版各社の競作状態になっている。

『漫画 ペスト』
Read more...

舛添要一氏が解説

   新しいところでは2020年11月末に、幻冬舎から『漫画 ペスト』が出た。作画は石川森彦氏。解説は、フランス留学経験がある舛添要一氏。「フランス語の原本を読み直し、厚労相として新型インフルに対応したときの経験も加味して解説した」とツィートしている。幻冬舎は全国紙にも大きな広告を打つなど力を入れている。

   「感染症はなぜ拡大し、どう終息したのか? 」「不安と不条理を乗り越え、共感と連帯へ進め! 」「難解・ノーベル賞作家の名作を、完全『目に見える』化!」とキャッチが並ぶ。そして「カミュが突きつけた最悪の事態をあなたはどう読むか?」と問いかけている。

   小説『ペスト』は新潮文庫に入っている。その新潮社からも10月に『ペスト 1 (BUNCH COMICS) 』が出ている。イラストは車戸亮太氏が担当している。

   『ペスト』は1950年に邦訳が出版され、69年に新潮文庫で現在のような一冊本として刊行された。先ごろ発表されたヤフーの今年の検索ワードのランキングでは、小説部門で「ペスト」がトップ。新潮社の文庫本は2月以降12回にわたって合計36万4000部を増刷し、累計96刷125万部となっている。活字本の勢いを漫画本にもつなげている格好だ。

アマゾンで高評価も

   一連の「漫画版」の中で動きが早かったのは、あさ出版。7月初めに『マンガ&あらすじでつかむ! 60分でわかる カミュの「ペスト」』を出版している。著者の大竹稽氏は教育者・哲学者。イラストは羽鳥まめ氏。

   宝島社も7月に2冊出している。中旬に『マンガで読むアルベール・カミュ「ペスト」』 (TJMOOK)、下旬に『まんがでわかるカミュ「ペスト」』だ。前者はフランス文学者の中条 省平氏の監修、漫画は嘉?もち氏。後者は哲学者の小川仁志氏の監修で、イラストは前山三都里氏。

   カミュはフランスの作家として知られるが、実はフランス生まれでもなければフランス育ちでもない。生まれたのは、フランスの植民地だったアルジェリア。父親はフランスからの入植者で、農業労働者。母親はスペイン系だった。『ペスト』の舞台がアルジェリアということには、カミュ自身の人生と、フランスとアルジェリアの関係が投影されている。

   また、『ペスト』は、単に感染症を扱ったものではなく、第二次世界大戦で欧州を襲ったナチスの支配を念頭に置いて書かれたものだとも言われている。幻冬舎版では、そのことを踏まえ、「対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み、圧倒的共感を呼んだ長編」ということも強調されている。

   アマゾンで見ると、これらは漫画版とはいえ、「星4個」の高評価が少なくない。小説を読むのが億劫な人も、手に取る価値がありそうだ。

注目情報

PR
追悼