女子マラソン一山麻緒への期待 一万メートル自己新で一段と高まる
2020年12月4日に行われた陸上長距離の日本選手権は空前の快記録に沸いた。女子の1万メートルでは新谷仁美(積水化学)、男子の1万メートルでも相澤晃(旭化成)が従来の記録を大きく更新する日本新。女子の5000メートルでは成長著しい田中希実(豊田自動織機TC)が1位になり、それぞれ東京五輪代表に内定した。
入賞を狙える存在
この3人の陰にやや隠れた形になったが、本当に注目すべきは、女子1万メートルで自己記録を更新して2位に入った、すでにマラソン代表に決まっている一山麻緒(23=ワコール)かもしれない。
なぜなら、男女のトラック競技よりも、女子のマラソンの方が世界レベルに近いとされているからだ。
一山は今年3月の名古屋マラソンで優勝し、東京五輪代表の3人目の切符を手にした。有力なアフリカ勢を引き離す快走だった。タイムは2時間20分29秒。この段階では世界歴代40位台のタイムだが、一山より上にいるのは大半がケニヤかエチオピアの選手。さらにはラドクリフや高橋尚子らすでに引退した選手も少なくない。五輪代表は各国3人だから、差し引いていくと、一山は現在、世界で10番目前後に位置している。つまり入賞を狙える存在だ。
今回の1万メートルで一山のタイムは31分11秒56。7月に樹立した自己記録31分23秒30をさらに縮めた。昨年12月段階では31分34秒56だったから、確実にスピードがついてきていることがわかる。
18分台も射程に入った
残念ながら今回、各紙のスポーツ記事は新谷、相澤、田中の三人に注目が集中、一山にスポットを当てた記事はほとんどなかった。わずかに、「西日本スポーツ」が、「マラソン女子東京五輪代表の一山麻緒(ワコール)=鹿児島県出水市出身=が女子1万メートルに出場し、自己記録を10秒以上も更新して2位。『スピード練習の成果が出た』と笑顔を輝かせた」と書いたのが目につくくらいだ。この記事は、「序盤で飛び出した新谷に1人だけ食らいつき、3000メートル手前まで追走。その後に離されても『いつもなら失速する』という単独走でも踏ん張った」と一山の成長を評価していた。
一万メートルの記録の短縮ぶりからすると、一山はマラソンで2時間20分切りはもちろん、18分台も狙える状態にあるといえる。そうなるとマラソン本番では入賞はもちろん、メダルも視野に入る。
昨年9月の女子マラソン五輪選考会では前田穂南(天満屋)が1位、鈴木亜由子(日本郵政)が2位で代表の座を一足早く手にした。しかし、二人のマラソンの自己記録は一山に遠く及ばない。これまでスピードでは鈴木が一枚上とされていたが、今回、一山は、鈴木の一万メートルの自己記録31分18秒16をも上回った。本番がスピードレースになった時も十二分に対応できそうで期待が高まる。
このあと、一山は20日の山陽女子ロードレース大会、さらに来年1月末の大阪国際女子マラソンに出場予定だという。