築330年の蔵を改修した奈良の古民家ホテル 「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」に泊まってみた
奈良盆地の中央に位置する田原本町は田畑に囲まれ、視界の先には山がそびえ、大和の時代から変わらない原風景が今も続く。そこに2020年8月末に開業したのは醤油蔵を改修した古民家ホテル「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」だ。
株式会社マルトは1689 (元禄2)年に創業した奈良県最古の醤油蔵元。古民家ホテルには330年の醸造の歴史が薫る。
早速、開業して間もないホテル「マルト醤油」に泊まり、醤油しぼり体験や朝参りを体験して、大和の地の歴史や300年続いた職人の日々に想いを馳せ、ゆっくり流れる時を楽しんだ。
蔵元の雰囲気を残す客室7部屋
東京に生まれ、東京で育ち、田舎がない記者だが、田舎におばあちゃんの家があったらこんな感じなのだろうかと思うような、懐かしい、日本の古き時代を彷彿させる土地であり宿である。
ホテル「マルト醤油」は大和棟と呼ばれる奈良伝統建築様式の屋敷を最小限にリノベーションして作られた。かつての蔵元の雰囲気を残す客室7部屋と住居棟にレストランから成る。
記者が泊まったのは「初瀬」と名付けられた、ゆったりとした広さの部屋で、かつて1Fに大豆を保存し、2Fに職人が寝泊まりしていた蔵を改修した客室。1Fにリビングとヒノキ風呂、洗面台、トイレがあり、階段を登るとベッドルームというメゾネットタイプだ。
当時の太い梁がそのまま使われ、砂壁の部分もあり、味わいがある。築130~140年の蔵ではあるが、もちろんエアコン完備でアメニティも過不足なく置いてあり、無料Wi-Fi完備で居心地は抜群。風呂はヒノキの香りたっぷりの湯舟でゆったり入れる。
当主は18代目
マルト醤油醸造所は、地元産原材料と天然醸造製法にこだわり、醤油づくりを続けてきた。皇室御用達でもあったが、戦後、食糧難により閉業。
それから70年を経た2020年9月、醤油しぼりを体験できる宿として新たに開業した。先代の孫である、18代目当主の木村浩幸氏が蔵の整理中にマルト醤油の古文書を見つけたことがきっかけ。そこから試行錯誤し、ホテルに合わせて醤油蔵も再興したのだ。
330年間、醸造蔵に棲みついた酵母菌のおかげで、添加物を一切使用しない天然醸造製法でかつての味を再現することができた。厳選した地元産大豆と小麦で仕込み、じっくりと発酵させ、2年間、ゆっくり熟成させてやっとできあがる貴重な醤油だ。
丹精こめた天然醸造による醤油造りの味は醤油しぼり体験で試食し、翌朝の朝食で食すことができる。力いっぱい絞って出てきたわずかな醤油は塩味より先に出汁のような味がする、まろやかな味わいだった。
御神体は三輪山
朝、フロント近くで集合すれば、朝参りのアクティビティーに参加できる。訪れたのは村屋神社。3本の稲穂を携えて地上に舞い降りたと伝わる三穂津姫を祭っている。私たちが参拝した少し後に地元の方であろうか、女性がひとり参拝に現れた。木村当主に県の天然記念物に指定されている原生林や近くを流れる大和川、御神体の三輪山はあの山、などと案内してもらった。昔はこの辺に港があったなど歴史を紐解く話を聞きながら、宿の周りを1時間かけて散歩した。
宿に戻ると朝食の時間。レストランのある母屋で頂く。テーブルに所狭しと並べられたおかずの数々。
ご飯もしくはお粥をチョイスできるが、お粥に醤油餡をかけることができるとのことで、お粥をチョイス。とろーりとした餡状の醤油をお粥と一緒に楽しんだ。どのおかずも塩分控えめで提供されているので、生醤油をかけたりして頂いた。醤油は2022年に少量を販売するところまでこぎつけたが、今、味わえるのは宿泊者のみ。
田原本からタクシーの送迎付き、また、夕食は来春までは近くの洋食店へタクシーの送迎付きで提供されているので、車がなくても困らない。ちなみに夕食は地元の客で賑わう洋食 Katsuiでシェフおすすめコースを堪能できる。柔らかくてジューシーな和牛のフィレステーキがメインのフルコースに舌鼓。
翌日は宿で自転車を借りて大神神社へ参拝しに行ったりサイクリングを楽しむこともできる。チェックアウト後のアクティビティーまで用意してくれるのは嬉しい。
昔の大和の生活を味わうことができる宿は外国のお客様に喜んでもらうこと請け合いだが、私たち日本人の心のふるさと探訪にもぴったりの宿だった。