中国のハイテクのリアルを伝える 日本の大手企業が注目する専門サイト
「36Kr Japan」というニュースサイトがある。中国の最新技術や金融に注目し、日本語で記事を配信している。アリババやテンセント、バイドゥといった大手企業だけでなく、スタートアップ企業を積極的に取り上げるのが、サイトのひとつの特徴だ。
2019年5月、日本経済新聞と提携してスタートアップに関するニュースを日経新聞と日経電子版の両方へ配信する。J-CASTトレンドは36Kr Japanを訪問し、日中デジタル事情にまつわる話を聞いた。
中国の電子決済や電子商取引記事が人気
「36Kr」は、中国における最大規模のテック・スタートアップ専門メディアで、月間5億PV(ページビュー)を稼ぐ。2017年にシンガポールで英語版を、そして18年に日本語版「36Kr Japan」を立ち上げた。
「中国は(日本と)、国の制度は違いますが、ビジネスモデルやテクノトレンドで参考にできることは多いです。サイトは中国のリアルな現場の情報発信が目的。こうしたニュースを流す専門メディアは、日本ではほかにありません」
こう話すのは、36Kr Japanの王瑩影(ワン・インイン)氏だ。2015年に中国・南京から来日し、現在は36Kr Japanの「パートナー」の肩書で、メディア運営を担当する。
主な読者は、日本のグローバル企業の新規事業開発部門や海外事業の担当者、投資家だ。起業家も多い。「中国に事業進出を考えている、中国の新しいビジネスを参考にして日本に取り入れる、といった際に36Kr Japanの情報を活用しているようです」。
近年の中国におけるデジタル化で一般に知られているのは、電子決済の進歩だ。現金のやり取りは影を潜め、スマートフォン(スマホ)でQRコードを読み取り支払い完了――。日本でもキャッシュレスの推進で見かけるようになったこの光景が、中国では先行した。36Kr Japanの読者には、中国での電子決済や電子商取引に関する記事が人気だという。
「中国は人口が多く、売り上げの規模が大きい。そのため『何千万人が見ている』『1日の売上高が数十億円』といった大きな数字が出やすく、注目されやすいです」
王氏と同じ「パートナー」として、36Kr Japanの事業開発を担当する公文信厚氏の説明だ。巨大市場・中国ではけた違いの人数が、電子決済を利用している。「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」といった決済サービスを提供するアリババやテンセントといった大手IT企業には、膨大な量のデータが日々送られる。これらを処理、解析して次のサービスの発展や安全な運用につなげるというのだ。
日本のデジタル化は相当進んでいる
中国にはこうしたスケール感に加え、新技術が生み出されると素早く実社会に導入して、試行錯誤する風土がある。
最近の例として王氏が挙げたのが、「バーチャル銀行窓口業務」だ。36Kr Japanが2020年8月25日付で報じている。本来は銀行の窓口に出向いて行わなければならない各種手続きを、ビデオ通話を駆使してオンラインで行う。もちろんセキュリティーはじめ各種リスク管理を徹底するのが前提だ。記事では「従来は各営業所で対応していた各種対面サービス、融資申請、法人口座開設などはスマートフォンのアプリや『WeChat(微信)』エコシステムを通じて行えるようになった」と説明している。
もちろん、中国社会に紹介された、ハイテクに基づくサービスがすべて成功するわけではない。ただ王氏は「中国の場合、チャレンジして失敗しても寛容」だと説明する。起業のハードルが低く、失敗を恐れない社会性があるようだ。今日の創業ブームもあって、「一般人がついて行けないスピード」(王氏)で、新サービスがあらゆる分野で生まれている。こうした動きに、日本では主に若い世代が関心を高めており、積極的に情報を収集しているという。36Kr Japanにも問い合わせが増えている。
日々、中国の最新デジタル技術の情報に触れる立場から、王氏と公文氏は日本の現状をどう見ているか。二人の認識は共通していた。「日本のデジタル化は決して止まってはいない。慎重だが、相当進んでいる」との評価だ。日中では国情が異なり、人口をはじめとする規模が全く違う。両国を比較しても意味はなく、むしろ日本の事情を見つめれば着実に進んでいると指摘する。
「新型コロナウイルスが日本にもたらした『ポジティブ』な影響は、デジタル化の加速です。日本社会も、例えば印鑑の廃止に向けた動きは迅速で、変わってきていると感じます。一方でもともと日本の強みである、真摯に学ぼうとする姿勢や信頼関係に基づいてきちんと仕事をする責任感は変わっていません。こうした強みに基づいた、日本ならではのデジタル化推進が今後加速すると見ています」(王氏)
(J-CASTトレンド 荻 仁)
日本に住む中国出身者の数は、2018年末時点で76万4720人。台湾出身者を合わせると83万人に迫る(法務省調べ)。日本社会に根付き、活躍する中国人は少なくない。J-CASTトレンドでは今後こうした人の取材を軸に、「私たちのすぐ近くの中国」を見ていく。