新型コロナで「従来のやり方変えねば」 来日18年、中国人IT社長の挑戦は続く
新型コロナウイルスにより、多くの事業が厳しい状況に置かれた。経営者によってはビジネスの継続とともに、社員の健康にも気を配らねばならない日々が続く。
鄭継飛さんは、AI(人工知能)によるソリューション事業を手掛けるソフトユージング(東京・品川)社長を務める。「コロナ禍」により、社員や取引先の人たちの感染予防のためにいち早くマスクを調達、配布した。同時にビジネス面では、コロナを契機とした新たな挑戦を見据える。
日本でのビジネスで学んだ信頼関係の大切さ
中国遼寧省出身の鄭さんはもともと、コンピューターで設計する「CAD」やプログラミングを専門としていた。2002年10月、留学生として来日。「日本の製品を学んで、先端技術を身につけたかった」からだ。いちから日本語を学んだあと、日本のIT企業に就職し、プログラミングなどの業務に携わった。09年、事業パートナーと共に起業。経営は順調だったがその後パートナーが離日することになり2014年10月、新たにソフトユージングを立ち上げる。それまでに、企業のコスト削減につながるコーディングの自動生成ツールを開発。「この技術を生かしたい」というモチベーションを、起業につなげた。
「初めは2、3人の会社。営業も開発経理も、何でもやりました」
顧客は日本企業。受託のソフトウエア開発やシステムソリューションサービスを提供し、ニーズは旺盛だった。コツコツと実績を積み重ねていくうちにクライアントは増え、大手企業とも取引をするように。今では社員286人を抱え、2018年に自社ビルに本社を移した。客先に常駐しITセキュリティーの作業に携わる社員も多い。業績は順調に伸び、人材育成を重視してマネジメント面や社員教育に力を入れた。
すでに来日してから18年となる鄭さん。ビジネス上で日中の考え方の違いはたびたび経験してきた。「相手の文化を理解し、違いを尊重して、その良さを学ぶ」を信条としている。
「日本のビジネスは、信頼関係を大切にします。トラブルが発生したとき、どう対応するか、その態度が重要。お互いが誠意をもって解決すれば、信頼関係は維持できます。無責任に逃げるのはご法度。ミスをしたらきちんと謝り、誠実に対応することです」
日本でマスク不足、中国で調達し社員や取引先に配布
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済に大きな打撃を与えた。鄭さんの会社も、事業の上で少なからず影響があった。その中でも、経営者として社会の責任を果たそうと努めた。
2020年初め、中国・武漢が深刻な状況に陥ったころ、支援のため日本から現地へマスクを送った。ところがその後、3月以降になって今度は日本でマスク不足となった。そこで中国での調達ルートを確保し、破格の安値でインターネットを通して日本国内向けに販売。あわせて社員や顧客、取引先に配布した。4月には、神奈川県箱根町に3000枚を無償で寄付した。当地の温泉ホテルを購入するなど、縁の深い街だ。
「当時、皆さんはマスクが手に入らず困っており、喜んでいただけました」
鄭さんは今後、日本国内での支援を会社として拡充していくことを考えている。例えば日本赤十字社や関係団体と連携して、高齢者やコロナの影響で生活に困っている人に向けた暮らしのサポートを構想している。具体化は今後だが、「会社は日本社会の一部ですから、その恩返しとして貢献していきたい」と意気込む。
新型コロナの勢いは、いまだに止まる気配がない。本業のIT事業ではかなりのダメージを受けたと鄭さんは明かす。だからこそ、こう考える。
「コロナが世界を変えた。従来の考え方・やり方も変えなければなりません」。
その一つが、在留中国人や中国に興味のある日本人を主な対象とする旅行・ショッピングサイト「Trip7.co.jp」の運用だ。これまで培ってきたシステム開発のノウハウを生かしたという。「コロナ後」を見据えた新展開だ。
もともと日本の先端技術に魅力を感じて留学した鄭さん。今も、日本の「匠」の技に関心を持っている。「中国にはまだ、知られていない日本の優れた職人文化があります。これをもっと中国にPRしていきたい」と考えている。
(J-CASTトレンド 荻 仁)
日本に住む中国出身者の数は、2018年末時点で76万4720人。台湾出身者を合わせると83万人に迫る(法務省調べ)。日本社会に根付き、活躍する中国人は少なくない。J-CASTトレンドではこうした人の取材を軸に、「私たちのすぐ近くの中国」を見ていく。