「マスク限定ライブ」模索したV系バンドの葛藤 開催に立ちはだかる新型コロナ
新型コロナウイルスの影響で、音楽イベントが軒並み中止となっている。
そんな中、ファンの安全確保を掲げ「マスク限定ライブ」の開催を模索したロックバンドがいた。バンドの中心人物に思いを聞いた。
3月9日「無料ライブ」を企画するも...
ヴィジュアル系ロックバンド「VAMPIRE ROSE(ヴァンパイア・ローズ)」は20年3月9日、東京・渋谷のライブハウスで「ファン感謝祭」と銘打った無料ライブを開催する予定だった。バンドの中心人物「ローズ伯爵」さんは「無料でワンマンというのが初めてでした」と語る。
20年2月下旬、新型コロナウイルスの感染拡大による政府からの「自粛要請」を受け、国内の大規模な音楽ライブは続々と中止に。だがローズ伯爵さんによると、「周りにいる100〜200人規模のライブハウスで活動するバンドは、衛生面を徹底した上で開催するケースが多かった」。VAMPIRE ROSEも、ライブの実施を予定していた。
ただ、人が集まる場所なので対策が必要になる。そこで考え出したのが「マスク限定GIG」だった。来場客にマスク着用を義務付け、持参できない人にはマスクを配布。会場内はトイレや扉、階段の手すりなど至るところを消毒し、体調不良の客には不参加を呼びかけた。
極め付けは、「メンバーもマスクをつけて演奏する」だ。
「ファン、スタッフ、メンバー含め、完全にマスクをしている人しかいない、という空間を作りたかった」
バンドは安全対策とエンターテインメント性を両立したライブの開催を模索していた。
「ハコ(会場)はキャパシティーが200人で、電車一両が満員になった状態よりも少ない。満員電車が普通に動いてるなら、ライブをやってもいいんじゃないかと考えていました」
「子どもが学校休んで、大人がライブやって」はダメ
ローズ伯爵さんが自身のツイッターで「マスク限定ライブ」の詳細を告知したのは20年3月1日。しかし、その3日後の3月4日、突如ライブの開催延期を発表する。
背景の一つに、20年2月15日、大阪市のライブハウスを訪れていた客が、相次いで新型コロナウイルスに感染した事実があった。このライブハウスの定員は200人。VAMPIRE ROSEが予定していた使用会場と同程度の規模で、大きな懸念となった。
それ以上に重視したのが、ファンへの配慮だ。家族に「ライブに行くならしばらく会わない」と参加を反対されていたファンもいたという。
「子どもたちは、大人が『学校に来ないでください』というから学校を休んでいる。子どもからすれば、大人の言うことは絶対。にもかかわらず『あの人たちは大人なのにライブをやっているよね』となったら、それは大人としてダメだなと。感染者が出る、出ないの問題じゃない」
葛藤もあった。周囲の関係者からは、ギリギリまでライブをやってほしいと言われ、心が揺らいだ。
バンドは悩んだ末、ライブを中止ではなく延期とした。ローズ伯爵さんは語る。
「マスクをつけたらファンの顔が見えない。ファンからすれば、僕らの表情も目だけしか見られない。この決断が一番よかったかどうかはわかりませんが、気持ちの面で『中止にしなかった』ということはすっきりしています」
当初の開催予定日だった3月9日には、YouTubeでライブ配信を実施する。そして、代替公演は20年5月7日に同じ会場で開催予定だ。
「あんなこともあったね、と笑い話にできるようなライブにしたいですね」
(J-CASTニュース編集部 佐藤庄之介)