噺家「月亭方正」東京理科大で連続講義 学生に真剣に伝えたかったこと

   噺家の月亭方正さんは、東京理科大学で2019年3月28日まで全6回の連続講義を担当している。同大学准教授の井藤元さんの依頼がきっかけで教壇に立つことになった。

   講義のテーマはプレゼンテーションやコミュニケーション能力の強化。就職活動を行う学生向けに、話芸である落語をもとに人に情報を伝える基本スキルを伝える。

東京理科大学で講師を務める月亭方正さん
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未経験の学生が人前で落語を披露する

   記者は、3月7日に行われた第4回目の講義を取材した。この日は、これまで月亭方正さんから講義を受けた学生が、実際に落語を披露する内容。練習期間が1週間程度という状況で、未経験の学生が人前でどこまで話せるのか。緊張感を克服しつつ、ベストなパフォーマンスが求められる実習形式の授業だった。

   冒頭、学生が高座に上がる前に、方正さんは登壇者の緊張をほぐそうと、発声練習や口角を上げる練習を行った。会場全体に「口角を上げることは表情を明るくするためにも重要」と説明し、会場全体で笑う練習も。

   学生が高座に上がり次々と落語を披露した。途中で止まることなく、全員が最後まで話し切る出来栄えに方正さんは感心。「今日は途中で止まることも想定していた。止まったら言葉を助けようとか、あまりにも止まったら、もう一回練習して、次の会にやろうとか(フォローを)考えていたが、(心配は)杞憂に終わってよかった。素晴らしかった」と話した。

大切なのは一生懸命、そして正直に

   方正さんは、それぞれの生徒にも個別に良かったところをコメントし、学生は真摯に聞き入っていった。そこには、普段テレビで見せるゆるいキャラクターはみじんも無く、芸の面白さや深さを真剣に伝えようとする噺家の姿があった。

   ある学生に対しては「一生懸命さがよかった」。一生懸命にやると「お客様は聞いてくれる」、一生懸命にやることはとても大切だとしたうえで、

「大人になると、一生懸命にできなくなることがある。それはどうしてか? それは怖いから。大人が一生懸命にやって失敗したら、(ほんとうに)落ち込んでしまうから」
「みんなはまだ若いから、今のうちに一生懸命にやることが大事」

と、熱弁した。

   学生からの質問も出た。「苦手な人とうまく付き合うのにはどうしたらいいか」と聞かれ、方正さんは「僕は適切な答えが言えない」という。「苦手な人であっても、その人のいいところを見つけていこう」という回答が模範だろうが、方正さんは苦手な人に対して、そういう付き合い方をしてこなかったそうで、正直に回答が難しい質問だと答えた。しかし、それでも大切なのは「嘘は言わないこと」。ここで「嘘の模範的な解答」を言ったら、帰りの新幹線で自分の発言を後悔して悩み続けてしまうと話し、正直であることの大切さを訴えていた。

   方正さんは、この講義で学生には落語のテクニックは求めていないという。そこで、記者は「本当に伝えたいことは何ですか」と尋ねた。答えは、「人とのかかわり方」を少しでも伝えていきたいというものだった。

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