働き方改革に合わせ睡眠を改革 「目覚め方改革プロジェクト」メディアセミナー
3月は睡眠と関係が深い月のようで、世界睡眠医学協会が定めた「世界睡眠デー」が今年は3月15日であり、これにならい日本では2011年に、精神・神経科学振興財団が18日を「睡眠の日」としている。また、同日の前後1週間を「春の睡眠健康週間」(3月11日~25日)として毎年、睡眠に関する知識普及や啓発活動がおこなわれている。
この機会に睡眠についての理解促進を目的に、睡眠の重要性の認知を高めようと専門家らが昨年設立した「目覚め方改革プロジェクト」は2019年2月に東京都内で、進められている働き方改革について、睡眠の面からさまざまに論じる講演を盛り込んだイベントを開催。新しい働き方は、睡眠により体内リズムを整えてのぞむことで適応できることなどが紹介された。
3月18日は「睡眠の日」
イベントは「"働き方改革"は体内リズムの改善から~多様で柔軟な働き方のカギとなるのは睡眠~」と題して行われた、同プロジェクトによる第2回メディアセミナー。4月1日から段階的に実施される働き方改革が及ぼす、ビジネスパーソンの睡眠にどう影響するかなどについて、各分野の専門家が講演した。
働き方改革では、残業時間の削減や休暇の取得が進むことで、余暇時間が増えるとみられている。同プロジェクトでは「オンとオフのいずれにおいても活動的で有意義に過ごすためのカギになるのは睡眠」と考え、セミナーでは、働く人たちにとっての睡眠や体内リズムの重要性についての再認識を促し、睡眠が日中のパフォーマンスに及ぼす影響について理解を深めるための講演がプログラムされた。
体内リズムの乱れに注意
プロジェクトのリーダー内村教授。「体内リズムの乱れによる睡眠障害も増えてきている」と指摘
「目覚め方改革プロジェクト」のリーダー、久留米大学医学部神経精神医学講座の内村直尚教授は、パフォーマンスを左右する睡眠の重要性について、特に目覚めと体内リズムに着目して説明。睡眠は、脳や身体のメンテナンス、疲労回復や免疫力の向上、記憶の固定などさまざまな役割を担っており、睡眠不足が高じればこれらの機能に不都合が生じる。本人が気を付けているつもりでも「夜でも明るい24時間社会の現代日本では、体内リズムの乱れによる睡眠障害も増えてきている」とした。
30~60代の働く男女1600人を対象に行った調査によると、日中のパフォーマンスに関して100点満点中80点以上のパフォーマンスができているかの問いに、体内リズムが「整っている人」では50.7%が肯定的だったのに対し「乱れている人」は36.4%という結果だった。
内村教授は「4月からは新入社員が入社してくるが、遅寝・遅起きの生活をしていた学生の場合、入社後急に体内リズムが変わって時差ぼけのような状態になり、仕事に集中できないといったことも起こり得る」と指摘。また、今年のゴールデンウイークが10連休になることに触れ「この10連休を挟むことでせっかく整いだした体内リズムが乱れやすく、例年より5月病が増えるものと危惧されます」と注意を促した。
睡眠短く生産性悪い日本
健康経営研究会の岡田邦夫理事長は睡眠問題も会社の介入を主張
従業員の健康に配慮することを企業の成長戦略の一つにと提唱した『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』の編著者の一人、特定非営利活動法人健康経営研究会の岡田邦夫理事長は、このセミナーでは、労働生産性と健康度との関連を調査した結果報告を交え、睡眠の問題を解説。「我が国は世界の中で睡眠時間が最も短く、長時間労働者の割合が韓国に次いで2番目に多い。しかし、労働生産性の水準は高くなく、日本よりも睡眠時間が1時間以上長いフランスや米国の時間あたりの労働生産性は約60ドルなのに対し、日本は約40ドル」という。
岡田理事長はまた「睡眠不足による経済的損失を調査したデータ」を紹介。日本のそれは1380億ドルで、この額はGDP(国内総生産)の2.92%にあたり「GDPに対する割合で見ると、先進国の中で日本が最も睡眠不足による経済的損失が大きい国」なのだ。「我が国は睡眠に極めて大きな問題を抱えている国」であり「睡眠の問題は個人では解消できないことが多いため、会社がある程度介入して仕事のあり方や仕事の与え方を検討していかなくてはならない」と話した。
JR東海「睡眠自己管理プログラム」が効果
「睡眠自己管理プログラム」の効果について述べたJR東海の清水紀宏さん
業務上の性質上とくに睡眠を重視する取り組みが欠かせないのは、鉄道会社をはじめとする運輸系の企業だ。東海道新幹線を運行するJR東海では「睡眠自己管理プログラム」を導入し、運転士をはじめ社員の睡眠管理の取り組みを行っている。
セミナーで、同社総合技術本部技術開発部の技術計画チーム担当部長の清水紀宏さんは同プログラムについて「就寝・起床時刻や勤務時間、出社時の眠気、疲労度をシステムに入力することで、自身の睡眠状態を把握してもらうようにした」と説明。体内リズムが24時間周期となっているかどうかがグラフで示され、睡眠に問題が認められる場合は「日々の起床時刻の差を2時間以内にする」などのアドバイスが表示されるようになっている。
「プログラムの活用によって、体内リズムの改善や作業能力の改善といった効果が認められ、社員からは『昼間の眠気が低減した』『取り扱いミスが減った』などの声が聞かれる」と清水さん。
アスパラガス由来成分が効く
セミナーではほかに、プロジェクトの協力企業である大塚製薬から、ニュートラシューテイカルズ事業部のソーシャルヘルス・リレーション部課長、只野健太郎さんが、体内リズムの乱れの改善や、睡眠問題の解決の可能性がある食品成分を紹介。只野さんによると、同社が注目しているのは、アスパラガスを加熱・酵素処理することで生み出される、通称「アスパラプロリン」という成分だ。
「20~49歳の夜型生活を送る男性を対象にアスパラプロリンを含む食品を摂取してもらったところ、アスパラプロリンを含まない食品を摂取した場合と比べて睡眠の質が改善し、日中の覚醒度や作業能力を評価する検査のスコアが改善することが分かった。このことから、アスパラプロリンには睡眠の質を改善することで日中の仕事のパフォーマンスを改善させる作用が期待される」という。