RADWIMPSの新作
「第二の成人アルバム」
タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
人間に「一目惚れ」があるように音楽にも最初の印象で決まってしまうことが少なくない。特にライブを見た時にそういう例が多いのは百聞は一見にしかずの音楽版ということだろう。2018年12月12日に通算9枚目のアルバム「ANTI ANTI GENERATION」を発売したRADWIMPSもそうやって出会った一組だった。
彼らを初めて見たのは2006年、二回目の横浜ブリッツ。通算では3枚目になるメジャーデビューアルバム「RADWIMPS3~無人島に持っていき忘れた一枚」が出た時だ。その不定形な瑞々しさに圧倒された。ジャンルがない。ロックとかフォークとか既成のカテゴリーに収まらない。優しさや人懐っこさ、痛々しいくらいの人恋しさや傷つきやすさ。歌詞という枠組みに収まり切れずにあふれ出してくる言葉とビートの自由さ。「人を好きになる」ということを常套文句を使わずに饒舌に表現できる。こんなに無垢なロックバンドが出て来たのか、という印象だった。
10代の中高生たちが反応
彼らの音楽に真っ先に反応したのが10代の中高生だろう。テレビの歌番組やバラエティーに出るでもない。それでも2007年の初めての横浜アリーナは即日完売だった。
彼らがどんなことを歌ってきたのか。人間がこの世に生まれてくることの価値。かけがえのない命と命が出会う事の意味。2008年に出たシングル「オーダーメイド」はそんな代表的な曲だ。なぜ人間の身体は目や耳が二つで口は一つなのか。心臓は左側にあるのか。涙はなぜしょっぱいのか。例えば「心臓」が一つなのは「大切な人ができてその子を抱きしめる時に二つの鼓動が鳴るのがわかるように」と歌っていた。会話する「誰かさん」が、実は会ったことのない「創造主」だったと思わせるオチがついてる。「オーダーメイド」がシングルチャートの一位になった時、今の若者の感性に拍手をしたい気分になった。
彼らの音楽に早くから反応していたのが映像作家や漫画家などのクリエーターだ。
その中の一人が2016年に公開されて記録的なヒットになった「君の名は」の監督、新海誠だった。彼がRADWIMPSの曲の中の「死生観」に共感していたという話は何度となく語られている。
RADWIMPSは野田洋次郎(V・G・P)、桑原彰(G)、武田祐介(B)、山口智史(D)という四人組。野田洋次郎と桑原彰が高校生の時に結成された。でも、この数年、彼らは「バンド」というより「音楽集団」という色合いを強めている。それぞれが担当の楽器以外も手掛ける。バンド全体で音楽を作ろうとしている。全編の音楽を担当した映画「君の名は」で歌っているのは全27曲中4曲。他はいわゆる「劇伴」と呼ばれるインストルメンタルだった。
NHK「18祭」の影響
12月12日に出た新作アルバム「ANTI ANTI GENERATION」は、「君の名は」の主題歌「前前前世」が収められアルバムチャート一位になった前作「人間開花」以来二年ぶり。前作は、ドラマーの山口智史が持病の療養で活動休止する中で作られたもので、インタビューでは「第二のデビューアルバムのようなものだと思う」と話していた。
前作以降、二度のアリーナツアー、アジアツアーを経ての新作の印象は「より自由になった」だった。それでいて瑞々しく、逞しい。
そういうアルバムになった要因の一つに野田洋次郎は筆者が担当しているラジオ番組FM NACK5の「J-POP TALKIN'」のインタビューでNHKで放送されたドキュメンタリー番組「18祭」をあげた。
「18祭」は、RADWIMPSと全国から集まった1000人の18歳が一夜限りの供宴をするという番組。自分にとっての「夢」をアピールした動画制作に始まりたった一回だけの共演まで1000人の18歳の喜怒哀楽を追ったドキュメンタリー。中にはひきこもりで外に出られない18歳が、練習する過程で出会った仲間に心を開いてゆくという様子も収められていた。
番組の課題曲として制作されたのがアルバム「ANTI ANTI GENERATION」の中の「万歳千唱」。その時の1000人の合唱も使われている。野田洋次郎は予定になかった「正解」も書き下ろして一緒に歌っている。アルバムには、そのバージョンが丸ごと収録されている。野田洋次郎はその時のことをこう言った。
「『万歳千唱』は企画を頂いた時に書いて、『正解』は、VTRとか動画を見せて頂いてから書きました。自分では18歳ってついこの間だと思ってましたけど、彼ら彼女らを見てるとあの頃のことはごっそり忘れてると思った。あの当時の、将来は見えなくて俺は何者なんだという、なんとも言えない感覚が呼び覚まされました」
「安泰世代」に対してのアンチ
「一段と自由になった」と思ったもう一つの要素が、他のアーティストとコラボレーションしていることだ。ONE OK ROCKのヴォーカルのTAKA、今、注目のシンガーソングライター、あいみょん、ニューヨーク在住のラッパー、MIYACHIと演奏力には定評のあるジャズロックバンド、SOIL&"PIMP"SESSIONSのトランペッター、Tabu Zombie。彼らの参加が音楽の幅をより広げていた。
1000人の18歳をはじめ、すでに活躍しているミュージシャンも含め、様々な世代が作り上げることになった33歳のアルバムに「ANTI ANTI GENERATION」というタイトルがついた。GENERATION、そう、「世代」である。野田洋次郎は「ギリギリに思いついて、実は違うタイトルで資料も作っていたんです」と言った。
「ANTI ANTI GENERATION」。"アンティ アンタイ ジェネレーション"という読み方のルビが付けられている。
もし、「アンティ・アンティ」だとしたらどうだろうか。「アンチ・アンチ・エイジング」とか「アンチ・アンチ・巨人」というように「何でもアンチする」という風潮に対しての「アンチ」という意味だろう。でも、二つ目を「アンタイ」と読むと意味が違ってくる。漢字の「安泰」である。世の中に蔓延する「安泰志向」に対してのアンチ。そういう「安泰世代」に対してのアンチ。このアルバムはそういう人たちで作り上げたアルバム、ということにならないだろうか。
アルバムの収録曲の歌詞の中に何度となく「敵」という言葉が出てきていた。これから何かを志す18歳にとっての「敵」というような意味でだ。今、彼らにとっての「敵」というのはどういう存在なのだろうと思った。
「大きな世間とでも言いましょうか。ふわっとして漂っている暗黙の無意識。世間の中に同じように存在してるんだけど、自分はその一味じゃないと思っている無意識。自分は加害者ではないと思っている加害者が一番厄介なんでしょうね」
アルバムの中に「PAPARAZZI~*この物語はフィクションです~」という曲があった。
「君の名は」以降、パパラッチに追い回された経験から生まれた歌と言って良いだろう。そのミュージックビデオの中で野田洋次郎は自ら縊死するというシーンを演じている。
自分が18歳の時には18歳をテーマにした作品は作れないだろう。アルバム「ANTI ANTI GENERATION」について彼は「第二の成人アルバム」のようなものかもしれない、と言った。
(タケ)