BIGMAMA、「-11℃」
「出会いと別れの温度差」とは
タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
どんなジャンルの音楽にも象徴的な楽器がある。たとえばロックにはエレキギターだろうし民謡には三味線がある。クラシックだとピアノという人もいるのだろうが、ハードルの高さという意味ではヴァイオリンだろう。今もポップス系のアーティストにとってはそうしたミュージシャンはどこか別格という潜在意識もあったりする。
2018年10月31日、メジャー一枚目のアルバム「-11℃」を発売したバンド、BIGMAMAは、「ヴァイオリンの入ったロックバンド」を旗印にしている稀有な存在だ。
「-11℃」(ユニバーサルミュージック、アマゾンHPより)
ヴァイオリンのいるバンドはカッコいい
金井政人(V・G)、柿沼広也(G・V)、安井英人(B)、リアド偉武(D)、東出真緒(VI、KEY)という5人組。元々は金井・柿沼・リアドが同じ高校のバンド仲間。このメンバーになったのは2007年。新作アルバムは8枚目だ。すでにインディーズで10年の活動歴がある。去年は初めての武道館公演も成功させている。インディーズからメジャーへ。彼らは「移籍ではなくお引越し」という言い方をしている。ヴォーカルでほぼ全曲の詞曲を書いている金井政人は筆者が担当しているFM NACK5の番組「J-POP TALKIN'」のインタビューでこう言った。
「10年間好きなことだけやってきて、前作で少し風呂敷を広げ過ぎたかもしれない。改めて自分たちの存在証明を探そうと。余計なことをしないで、ヴァイオリンのいるロックバンドはカッコいいと思ってもらえるような突き詰めたアルバムにしたいと思いました」
8枚目にしてメジャー一枚目。「-11℃」を聞いた感想は、二つの点で「こういうアルバムは日本にあっただろうか」だった。
一つはアルバムのコンセプトである。全12曲。どの曲にも人の身体の部位の名前がついている。一曲目は「手・YES MAN」で二曲目は「足・Ghost Leg」。三曲目「心臓・Strawberry Feels」、四曲目「肺・Insomniark」という具合だ。しかも、二曲が曲つなぎのような組曲風になっている。人の身体がそうであるようにそれぞれの曲が関連性を持って成り立っている。
「今、CDを買ってもらうハードルはかなり上がってると思うんです。どうすればCDとして楽しんでもらえるか。一曲目から最後まで聞いた時にそれが増幅されるようなものにしたかった。パーツを決めてから書いてます」
それぞれの曲に込めたウイットとシニカルな毒。青春の終わりや大人になることを託した「足」には「Ghost Leg」という英語タイトル。つまり「幽霊の足」だ。「幸せ過ぎて吐き気がするの」と歌う10曲目の「胃」は「Happiemesis」である。「幸福」と「嘔吐」の造語。随所にそうした仕掛けがあるのもロックバンドならではだ。金井政人は絵本も発表している。
自分以外できないことをマニアックにならずに
もう一つの感想が肝心な音、だ。
ヴァイオリンの入ったロックバンドとして真っ先に思い浮かぶのがLUNASEAだろう。ギターのSUGIZOが弾くヴァイオリンがバンドの美意識を増幅するアクセントになっていた。でも、SUGIZOの音楽性の一つという印象だったLUNASEAに比べると、BIGMAMAはバンド自体の成り立ちがそこにあるという強烈なインパクトがある。
ヴァイオリンの入ったロックバンドという存在証明。ロックオペラのような悲劇性を強調した曲から踊りだすような躍動感。全曲で存在感を存分に発揮している。色を添えているとか表情を豊かにしているという程度ではない。ヴァイオリンとギターが真正面から激しくバトルしている。まるでヴァイオリンがロックのための楽器であると言わんばかりなのだ。
しかも、一曲の中でフレーズに応じてリズムや編成が変わったりする。それを機械に頼ることなく全員の演奏で表現している。
クラシックのようでありプログレッシブロックのようであるという構築されたヘビーメタル。言葉も含めた作家性をここまで突き詰めたアルバムは思い当たらなかった。
「徐々にそうなって行きましたね。最初からそこまでの自覚性はなかった。高校の時にヴァイオリンを弾く同級生がいて、その子とバンドを組もうと思ったところから始まってますから。ミュージシャンになりたくてなった人と比べると辞められない理由が増えてきたから続けている。着実に段階を踏みしめて喜びを感じてきたバンドなんです。寄り道もあったけど、無駄じゃなかった。価値ある10年だったと思います」
そもそもはヴァイオリンの入ったアメリカのパンクバンド、イエローカードに刺激されてコピーすることから始まった。BIGMAMAも当初は英語で歌っていた。その中で自分たちがやるべきこととその喜びを見つける過程がインディーズの10年だったことになる。
前作発売時のインタビューでは「USとUKの真ん中にあるJPを邦楽ロックと言う形で射抜きたい」と発言していた。
「他人がやってること、すでにあるものは僕らはやらなくていいと思ってるんです。自分以外にやれない、書けないものを見つけてマニアックにならずにやりたいと思ってます」
インディーズからメジャーへの「お引越し」。周囲の住人もそこから見える景色も違うはずだ。そして、彼らのことを今まで知らなかった人とも出会ってゆく。
「初めて楽しんでくれる人とのやりとりだけじゃなく、これまで聞いてくれた人たちだから分かる過去作の主人公と重なるようにも作ってます」
誰にも似てないロックバンド。その最たるものがライブだろう。12月25日、クリスマスの赤坂ブリッツからツアーが始まる。アルバムタイトルは「出会いと別れの温度差」だという。冬の屋外とは別世界のような温度差のある熱いライブ空間が展開されるに違いない。
(タケ)