老後資金はいくら必要? 山崎元さんは「平均にだまされるな」と
クロワッサン(8月25日号)の「貯まる家計塾」で、経済評論家の山崎元さんが「平均」に一喜一憂する愚かしさを説いている。なんの平均かといえば老後の生活資金、いわゆる「人生100年時代」のやりくり設計である。山崎さんはこう始める。
「ファイナンシャル・プランナーなどが老後のお金の問題について書いた記事を目にする機会が増えました。記事には、役に立つものも、そうでないものもありますが、役に立たない記事の判定基準を一つお教えしましょう」。読者はぐいと引き込まれよう。
「冒頭の数行を読んでみて、『ゆとりのある生活を送るのに必要な金額は月34万9000円』といった調子で、生活費の目処となる数字をいきなり具体的に挙げている記事は、経験的に言って、ほとんど役に立ちません」
言い切ることで読者をぐいぐいと先導(扇動ではない)する、指南型コラムの常道である。なんでも月34~35万円という数字は、生命保険文化センターによるアンケートの平均らしい。山崎さんは、その「平均」こそが曲者だと指摘する。
人並み以上に稼ぐ人は「これで足りるのか」と心配になり、所得や貯蓄が不十分な人は「こんなにないと老後はみじめなのか」と不安になる。なるほど。
「現実には、所得や貯蓄の多い人も少ない人もおり、家庭の事情も様々なので、世間の『平均』とされる数字を聞いても、正しい参考になりませんし、不安は解消しません」
「自分の数字」で計算を
ではどうすればいいのか。答えは、「自分の数字」を使い、必要となる老後の備えと毎月の貯蓄額を計算し、実行すること。「これだけが安心への道」とする山崎さんは続ける。
「つまり、豊かな人は豊かななりに、そうでない人はそうでないなりに、スケールを変えて将来に備えるとよいのです」
答えは案外簡単に出るという。山崎さんは「自分の数字」を導き出す計算式を「人生設計の基本公式」としてネットで公開している。気になる読者は下記URLからどうぞ。
https://www.officebenefit.com/calculate/
毎月の必要貯蓄額は、年金の前提条件や資産額で変わるが、厚生年金だけのサラリーマン家計の場合、手取り所得の20%くらいだという。「そんなの無理」という人もいようが、山崎さんは一度の計算で諦めるなと励ます。現役の期間を延ばす、配偶者が働き始めるなど、前提条件を変えて実現可能な貯蓄額に挑戦すべしと。「平均」の話で心配するより、「自分の数字」で漠とした不安を解消し、乗り越える手段を講じようというわけだ。
「将来、何が起こるかを正確に予想するのは困難ですが、必要貯蓄額が達成できている家計は将来の備えができている...細かな心配の多くは、後で対応して間に合います」
雑誌の「平均寿命」は?
このコラムを読んで、「平均」とされるものは実は誰の数字でもない、ということを改めて思った。たとえば、40人の同窓生の中に大成功したIT企業社長がいる。彼の年収は1億円で、残る39人は非正規労働や失業中で平均年収300万円。この状況で「クラス平均は540万円強」と言われても、その数字にさしたる意味はない。
正直に書けば、それより何より「クロワッサンに老後指南が載る時代になったのか」という感慨が大きかった。「貯まる家計簿」は荻原博子さんとの交互執筆で、彼女が書いた前号のテーマも「不安が募る老後資金。本当はいくら必要なのか?」である。
クロワッサンは創刊が1977年、マガジンハウスがまだ平凡出版だった時代で、当時は「女の新聞」を標榜していた。コアな購読層は独身女性から働く既婚女性に移り、いまやミセスの暮らし全般をサポートする。雑誌は愛読者と共に、確実に年をとるのである。
親子三代といえば聞こえがいいが、昨年の創刊40年で編集長氏が語っていたように「おばあちゃんが読んでいた雑誌」でもある。雑誌の活力を保つには、長期読者の「卒業」をありがたく見送りながら、より若い層を意識したリニューアルを重ねていくしかない。
雑誌の「平均」寿命にも大した意味はないが、それを延ばすための努力には大いに意味がある。一篇の家計コラムから、そんなことを考えた。
冨永 格