わずか2分の間奏曲「熊蜂の飛行」 派手な技巧、近年はボーカロイド演奏も
先週は、「毒蜘蛛」を由来に持つおそろしげな「タランテラ」をご紹介しましたが、今週は、毒蜘蛛と同じぐらい人間にとっては恐ろしい昆虫、熊蜂(クマバチ)が登場します。人気曲で、広く知られているリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」です。
蜂の大群が羽音を響かせながら海を渡る場面描く
「ロシア5人組」という、国民楽派のグループの一人であったニコライ・リムスキー=コルサコフは、ロシア音楽の発展に心を砕き、作品の基礎にロシアの伝説や物語を多く採用し、また次世代ロシアを担う優秀な弟子も多く育てた人でした。
そんな彼が1890年に、プーシキンの同名の詩を原作とし、ウラディミール・ベルスキーという人物が台本を書いた「サルタン皇帝の物語」というオペラ作品を作り上げます。王家の愛憎を童話的タッチで描いた物語でしたので、オペラも、どちらかというと子供に喜ばれるような作品でした。
姉2人の王への讒言(ざんげん)によって、王妃の位を追われた母と、その愛情を受けて流刑の地ですくすくと育った王子が、「悪役」である叔母たちを懲らしめに行く場面の音楽が、「熊蜂の飛行」です。王子は、助けた白鳥の恩返しの魔法によって、なんと蜂に自らの姿を変え、海を渡って復讐に出発するのです。この場面で流れるオーケストラによる「間奏曲」が、「熊蜂の飛行」として知られた曲です。
蜂の大群が、羽音を響かせながら海を渡る場面を、描写的に描いた音楽は、同じロシアの作曲家ラフマニノフがピアノソロに編曲したり、またその技巧的な派手さから、ヴァイオリンをはじめ、多くの独奏楽器向けに編曲され、大人気となりました。さらには、クラシックのジャンルをも超えて、ギターソロによるロックや、近頃ではボーカロイドによる演奏も多く見かけます。
「クラシックの名曲」として不動の人気
作曲者リムスキー=コルサコフにとってもこれは意外なことだったかもしれませんが、オーケストレーションの大家であり、ロシア的、すなわち、それまでのクラシック音楽からしたら少しエキゾチックな要素をふんだんに盛り込むリムスキー=コルサコフの狙いは、この曲でも見事に効果を発揮しているのです。
オペラオリジナル版でも3分台、管弦楽組曲用の短い編曲ならわずか2分という短い曲である「熊蜂の飛行」は、オリジナルのオペラが上演されることがごくまれなのと対照的に、「クラシックの名曲」としての、不動の人気を誇っています。
本田聖嗣