たった3日間で世界中から取材殺到 「まちがい」が奇跡を起こした料理店
東京・六本木に2017年9月、たった3日間だけオープンして話題になった料理店がある。
その3か月前の6月に、招待客だけを客にして2日間限定でプレオープンした際には、yahoo!の急上昇ワードで1位を獲得、世界20か国から問い合わせや取材依頼が殺到した人気店が、一般客を招いて営業したのだ。
クラウドファンディングで500近い個人・企業・団体から1291万円の支援金を集め、人気ラーメン店、牛丼チェーン、洋食の名店、老舗和菓子店、人気カフェ、大手清涼飲料メーカーから全面的な協力を得た。それが「注文をまちがえる料理店」だ。
これだけ注目された最大の理由は、接客をするウエイトレス/ウエイターがみな、認知症を抱える人たちだったからだ。プレオープン時には、水が2個置かれたり、サラダを食べるのにスプーンを提供したり、ホットコーヒーにストローが添えられたりの間違いは当たり前。注文を取りに行ったテーブルで昔話が花咲いてしまった風景も見られた。60%のテーブルで何がしかの間違いがあったが、90%のお客さんが「また来たい」と答えたという。
そんな「注文を間違える料理店」が初めて一般客を迎えた3日間を詳細にレポートし、その運営ノウハウをレシピとして公開したのが本書「注文をまちがえる料理店のつくりかた」である。
「ま、いいじゃないか」と間違いを受容する社会
このユニークすぎる料理店を企画したのは、"番組を作らないディレクター"として知られる本書の著者・小国士朗氏。同料理店の実行委員長である認知症介護の第一人者・和田行男氏が運営する施設を取材した際、施設入居者の方々が作った昼ごはんをご馳走になったのがきっかけだった。テーブルに料理が運ばれて小国さんは驚いた。ハンバーグを作ると聞いていたのに、出てきたのは餃子だったからだ。「これ、間違ってますよ」の言葉をかろうじて呑み込んだ小国さんは、その瞬間「注文を間違える料理店」という言葉をひらめいたという。
番組作りの取材で「社会課題は、社会受容の問題であることも多い」と実感していた小国さんは、注文を間違えられても「ま、いいじゃないか」と受容し、それを楽しむ料理店の空想がどんどん広がっていったそうです。この企画をさまざまな人に伝え、意見を聞いて練り上げ、協力者を増やし、ついに実現したのが去年のことだった。ついに、おしゃれで、おいしい料理を出すけど、注文を間違えるかもしれない料理店がオープンにこぎつけたのだ。
本書にはプロのカメラマンによる写真もふんだんに載せられているので、おしゃれで楽しいお店の雰囲気、清潔感があってシンプルな店内風景や、おいしそうな料理の数々、お客はもちろん、スタッフや認知症の店員さんの溢れんばかりの笑顔がリアルに伝わってくる。何よりいいのは食器やユニフォームのおしゃれなデザインやロゴマーク。"間違えちゃった、ゴメンね"と、舌をペロッと出しながら照れているような「てへぺろ」マークが、この料理店の趣旨を的確に伝えているようだ。