ASKA、あれから精力的に新作二枚
「自由」と3年後の計画まで
タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
アルバムのリリースのテンポは、キャリアによって変わってくる。若い頃やデビュー当時は、毎年新作を出すというのが普通だ。溢れんばかりの創作のエネルギーが次々と新作として結実してゆく。
ベテランと呼ばれる年齢になると、その逆だ。一枚のアルバムをじっくりと時間をかけて作り上げてゆく。数年に一枚というのがそうした人たちの平均ペースだろう。
「自分の世界を記録しておきたい」
そういう意味で特筆しなければいけないのがASKAではないだろうか。2月に「Too Many People」、10月に「Black&White」という二枚のオリジナルアルバムを発売、それぞれがアルバムチャートの10位以内にランクインして根強い人気も証明。40年近いキャリアのアーティストとしては異例の精力的な活動を展開してきた。
彼は筆者が担当するFM NACK5の「J-POP TALKIN'」のインタビューで「一枚目を作る時点で50曲くらいはありました。まだまだ沢山あります。すぐにでも次のアルバムが作りたいくらい」と言った。
新作の二枚のアルバムには、それぞれに少しずつ違いが感じられる。「Too Many People」は音楽活動の再開一作目。特有のメロディの柔らかさや力強さの中にも、この間のメディアや世間の反応に対しての言葉にならない張り裂けそうな思いが込められているようであり、二作目の「Black&White」は、それらを受け入れて、そこから歩き出そうという清々しさも感じられた。その中には「今がいちばんいい」という象徴的な曲もあった。
「ASKAの音楽というのはどういうものか、円を描いてそこに色んな音楽の要素を入れて、それを二枚に分けて作りました」
彼のソロ活動はCHAGE&ASKAでデビューした10年後だ。それ以来、CHAGE&ASKAとは一線を引いた作品がソロになっていた。
「ソロをやるのはかなり覚悟が必要だったんですね。抵抗感もありました。その摩擦を避けるために実験アルバムにしよう、それを持ってCHAGE&ASKAに戻ろうということで出してきた。今回は、そういう分け方はしてないですね。自分の世界を記録しておきたいと思いました」
最大の難関は「詩」だった
CHAGE&ASKAを最初に取材したのは1983年に代々木オリンピック競技場(当時)を初めてコンサートに使ったライブの時だ。それ以来、彼の創作活動で最大の難関が詩だということを何度となく見せられてきた。詩が書けないということで取材が前日にキャンセルになったこともある。でも、今年の2枚のアルバムについて彼はこう言ったのだ。
「今回、4時間かかった詩はないんです。前は一週間、一か月かかっても書けないことがしょっちゅうでした。こだわりが変わってきたみたいですね。前は一行目までが長かった。今は、大枠を書いてから書き直す。何でそうなったかは自分でも分析できないんですけど、時間はかかりませんでした。表に出られない、皆さんにとっては空白の時間に楽曲作りと並行して散文詩も書いてたんですが、それが140編くらいありますからね」
今年の彼の活動は、そうした創作だけに留まらない。二枚のアルバムは、自分のレーベルDADAから発売されている。大手のレコード会社を通さないインディーズという形だし、11月には配信レーベルWeareも立ち上げた。
「音楽を作ることがどんどん難しくなってますからね。僕らみたいに恵まれた活動をさせてもらっているミュージシャンはいいんです。もっと世に出てゆくべき才能が見つけてもらえない。スタジオで音楽を作るという経験をさせてあげたい。だから、今も大きなアーティストには声をかけてません。自分たちでやれる人はいいんです。僕らはミュージシャンがミュージシャンとして活動できる場を作りたい。ビジネスではありません。僕は、広場、共同体と呼んでます」
彼のソロアルバムは2012年の「SCRAMBLE」以来丸5年ぶり。その間に起きたことに触れることにはさほど意味はないように思う。「罪を憎んで人を憎まず」という言葉に倣えば「罪を憎んで作品を憎まず」だろう。音楽には何の非もない。何よりも大切なのは、つまずきや過ちからどう歩き出すかだからだ。
「僕がこういうことを言うとお叱りを受けるかもしれませんが、あの事件がなかったらこんな風には活動出来てなかったと思うんです。相変わらずメジャー契約の中で過去の流れの中でぬくぬくとやっていたでしょう。今、僕は自由です。どことも契約がない。全て自分の責任。世の中に喜んでもらえること、聞いている人の幸せを共有して打ちひしがれた人の支えや灯りになる音楽。それを創れていることの喜び。共鳴してくれる人への感謝の気持ちを持って真摯にやってゆきたいと思ってます」
CHAGE&ASKAのデビューは79年。来年はデビュー39周年。そして、彼も社会的にも晴れて自由になる。
今、3年後のことを計画しているのだそうだ。
(タケ)