「『歌うって楽しい!』心から、そう思える1枚に仕上がりました」 「歌手」大竹しのぶインタビュー
「歌手 大竹しのぶ」が、NEWアルバム「ち・ち・ち」(ビクターエンタテインメント)をリリース。発売翌日の2017年11月23日には東京・渋谷のタワーレコードで、約40年ぶりにミニライブ&握手会を開き、約100人のファンを魅了した。
アルバム「ち・ち・ち」は、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんや高橋優さん、松尾スズキさん、山崎まさよしさん、森山直太朗さんといった作家陣が書き下ろしたオリジナル曲やカバー曲、エディット・ピアフの「愛の讃歌」を含めた全10曲を収録した。
デビュー以来、舞台や映画・ドラマに出演。数々の賞を受賞してきた大女優の大竹さんも今年で還暦を迎えた。そんな大竹さんだが、2016年の「NHK紅白歌合戦」への出場をはじめ、近年は音楽活動にも精力的に取り組んでいる。「歌うこと」への思いを聞いた。
「キライナヒト」のゲストボーカルにはあの人が......
―― NEWアルバム「ち・ち・ち」の発売、おめでとうございます。今回のアルバムには、バラエティに富んだアーティストが参加されていますが、これらは大竹さんの人選ですか。
大竹しのぶさん「ええ、そうですね。まずは声をかけやすいお友達から攻めてみました。(笑)鬼龍院翔くんや山崎まさよしさん、松尾スズキさんは、私が直接お願いしました」
―― 若い作家さんがそろっていますね。年齢にふさわしい、いわゆる女優らしいアルバムではなく、かなり攻めた内容のように思いますが、狙いはどんなところにあるのでしょうか。
大竹さん「タイトルの『ち・ち・ち』は、私が女優を始めた頃に俳優の米倉斉加年さんに言われた、仕事をするにあたって、3つの『ち』を大事にしなさいという言葉に由来します。『知』は知識、知性。2つ目の『痴』は、馬鹿になって取り組む姿勢。3つ目の『稚』は、子どものような無邪気な好奇心のことで、ずっと頭の隅にあったこの言葉をテーマにしました。それらを表現していくため、胸に沁みるバラードやロックンロール、せつないラブソング、コミカルなナンバーと、いろいろ。ゲストミュージシャンの方々と、楽しくつくらせていただきました」
── 高橋優さんから提供された「キライナヒト」では、ゲストボーカリストとして明石家さんまさんが参加されていますね。さんまさんも、大竹さんからオファーしたのですか。
大竹さん「ええ。優さんのつくってくれた仮歌のイントロ、間奏に『なんやこれ!』みたいなツッコミが2、3あったんですね。それで優さんと相談して、『もう本人呼んじゃおうか?』と。それで連絡したら、「ええよ」と即決まって。ビックリです」
―― もともと意図していたとか?
大竹さん「意図してたようなことはありません。ホントに。気楽な気持ちでした。優さんも『いいんですかぁ!』って。そんな感じでした」
鬼龍院翔さんの切ない曲が好き
―― たとえば、鬼龍院翔さん(「Miren」作詞作曲)は、ビジュアル系というゴールデン・バンバーのイメージもあって、一般的には、周囲から見ると「ち・ち・ち」の2つ目の「ち」(狂気、ばかばかしさ)のように映ります。大竹さんの目から見ても、鬼龍院さんはそのように映っていらっしゃるのでしょうか。
大竹さん「いいえ。そんなことはありません翔さんとは、かれこれ3年くらいのお付き合いになりますが、本当に真面目で、ステキな人で大好きなんです。私は翔さんの切ない曲が好きです。『女々しくて』のハチャメチャな印象が強いのかもしれませんが。2つ目の『ち』の部分は、どちらかといえば、松尾スズキさん(作詞)の『変な芸術の先生』のほうだと思います」
── その「変な芸術の先生」もそうですが、今回のアルバムでは、大竹さんの歌唱法の幅広さに驚かされました。「変な芸術の先生」ではなんというか、壊れた歌いっぷりがスゴイですが、これには演技的な要素を、かなり意識されたのでしょうか。
大竹さん「そうですね。演技的な要素は意識します。私は俳優なので、やはり演じて歌うことしかできません」
―― それは、どういうことでしょうか? 2016年末のNHK紅白歌合戦で、エディット・ピアフの「愛の讃歌」を歌われましたが、観ていて圧倒されました。あれは演技的だった......。
大竹さん「気持ちを込めるというか、歌詞の想いを伝える。そのために、どう表現することがいいのか、考えていますね。たとえば、『愛の讃歌』はピアフの世界観がすでに浸透していますよね。ピアフへの敬意、世界観をインスパイアしつつ、私の気持ちもそこへ込めて歌いました」
「ずっと、歌っていたい」
―― 「女優」のお仕事への取組み方と、「歌手」としての仕事の取組み方に大きな違いはあるのでしょうか?
大竹さん「一番の違いは、舞台は造り上げたモノを観ていただくこと。音楽は、その場で表現して楽しんでもらうモノでしょうか。音楽はその時その時に集中していますし、その時を楽しまないとダメかな、と思います」
―― 12月8日からは、渋谷・シアター・コクーンで、舞台「欲望という名の電車」がはじまりました。
大竹さん「舞台に向けて、毎日8時間稽古しているんですが、もう時間がなくて。24時間やっても稽古が足りないくらい。でも、しっかり稽古を積んで胸を張って、観ていただけるような舞台にすべく準備を進めています」
── 大竹さんにとって「音楽の楽しさ」とは、どのようなものなのですか?
大竹さん「舞台や、映画やドラマは多くの役者さんや監督さん、スタッフさんと現場で、ああでもないこうでもないと意見をぶつけながら、長い期間をかけて『つくり上げていく』ものです。ですから、初日には完成品をみなさんにお観せできるんです。その過程が、つらいこともあるけど楽しい。でも、音楽は違います。ミュージシャンの方々は楽器の演奏、歌うことですぐに仲よくなったり、うち溶け合えたりします。それがスゴイなって思う。音を奏でると、ものの数分ですよ。もう、なんてステキなんだろうって。『私もまぜて』みたいな。それで歌わせてもらうと、これがまた快感で。なんか、音楽の魅力に憑りつかれちゃいました」
── 近年、かなりコンスタントに歌われていますが、その気持ちの表れということですね。なにか、きっかけがあったのですか。
大竹さん「はい。自発的な音楽活動はここ3年ですが、一番のきっかけは2013年に泉谷しげるさんとご一緒した「黒の舟唄」(泉谷しげる氏のアルバム『昭和の歌よ、ありがとう』に収録)ですね。そのときの体験がすごく楽しかったんですね。初めてお会いした人とも意気投合して。音楽の不思議な力を感じました。本当に貴重な体験で感謝しています」
── きょうはライブですが、人前で歌うことで意識されていることはありますか?
大竹さん「ステージは好きですね。歌っていて楽しいし、お客様もすっごく楽しそうに飛んだり跳ねたり、ときに泣いちゃったり。伝わってきますよね。ストレートな気持ちが。もう、ずっと歌っていたい気持ちです」
―― ところで、ふだんプライベートでは、どんな音楽を聴いていらっしゃるのでしょう。
大竹さん「ブルーノ・マーズに、ハマっています!大、大、大好きです」
(取材:2017年11月23日、東京・渋谷タワーレコード)