「気のせい」じゃなかった! 胃の病気「機能性ディスペプシア」の原因と対策
2017-10-27 10:30:00
胃が痛い、胃もたれする、ムカムカする。検査で異常はなかったのに、どうして――。
それは、「機能性ディスペプシア」と呼ばれる病気かもしれない。胃もたれなど胃の違和感があるが、内視鏡などの検査では異常がみられない状態を総称する。2013年に正式な病気と認定された。
「機能性ディスペプシア」を疑った時、どうすればよいか。J-CASTトレンド編集部は、消化器内科の緒方医院(東京都大田区)・刑部(おさかべ)優美院長に話を聞いた。
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有病率は10~20%
――実はこの病名、初耳でした。「機能性ディスペプシア」とはどんな病気ですか。
「器質的疾患や全身性の病気、代謝性の病気がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛(みぞおちの痛み)やもたれを感じる症状で、機能的な異常で起こる病気のことです。内視鏡検査などを受けていただき、胃がんや胃潰瘍や、胃炎などの器質的な病気がないことを確認して、診断されます」
――主な症状には、どんなものが挙げられますか。
「胃もたれと早期飽満感(すぐに満腹になってしまうような感覚)、心窩部痛(みぞおちの痛み)と心窩部の焼灼感(みぞおちの焼けるような感覚)の2つに大きく分けられます。それ以外には、吐き気とか腹部の膨満感などの症状があります。これら全部の症状をお持ちの方もいらっしゃいますし、様々なケースがあります」
――こういった症状が発生する原因は何ですか。
「食物が食道から胃に入ってくると、上部のあたりが拡張されて、食物が貯留されます。ただ、胃が広がらないと、溜めることができません。色々なストレスによる自律神経の乱れが関係していると考えられ、これが拡張できなくなると、溜められなくなり、すぐにお腹いっぱいになってしまうのです」
――それが早期飽満感と言われるのですね。胃もたれの原因は何ですか。
「胃で消化した食物を排出する動きが障害されることで、溜まったものがなかなか十二指腸に送られてこない、という機能異常で起きていると考えられます」
――みぞおちの痛みとみぞおちが焼けるような感じ、こちらもお願いします。
「知覚過敏(胃が刺激に敏感になる)によるものと考えられています。胃の中ではPH2.0ぐらいの非常に強い酸、胃酸を分泌しており、食物を溶かしてしまいます。普段はそれが胃の中にあっても、痛いとは感じないのですが、知覚過敏になっていると、痛みを感じやすくなるのです。これが心窩部痛として表れます。焼灼感も酸の刺激が強く感じられるから、という部分が大きいです」
早めの受診が大切
――今、機能性ディスペプシアの有病率は日本人でどれくらいなんでしょうか。
「健康診断を受けた方の有病率が10~20%くらい、胃の不調を感じて病院を受診した方の約半数とも言われています」
――続きまして、機能性ディスペプシアへの対策面をうかがいます。生活習慣で何か気をつけるべきことはありますか。
「食事、睡眠、運動の3大柱は強く関係しています。油ものの食事をとると、胃酸が増加します。香辛料やアルコール、タバコも影響します。運動して筋肉を動かすことで、自律神経が整えば、体の機能も整います。もし生活習慣で乱れがあると感じるなら、まずそこを整えてみるのが大事だと思います。最近、胃の不調を改善するとしてプロバイオティクスであるLG21乳酸菌のデータも発表され、取り入れてみるのも一つの方法だと思います。ただ、症状が長く続いている方は、生活習慣の改善にこだわらず、早めに消化器科を受診なさるのが大事だと思います」
――LG21乳酸菌の摂取もいいのですか。
「LG21乳酸菌が機能性ディスペプシアの症状を改善するという報告があります。機能性ディスペプシアの症状がある方が、LG21乳酸菌を摂ったところ、胃の症状が全体としてよくなり、症状を緩和したというデータが発表されています。また食品なので副作用もなく安心して取り入れられます」
――まずは病院に行くことが大切なんですね。
「すぐに命にかかわる病気ではないですが、生活の質を大きく低下する病気です。つらい胃もたれや痛みにより、友達と美味しくご飯が食べられない、外に出られなくて働きに行けず生活ができない、など大きな影響を与えることもあります。また精神的な疾患につながることも考えられるので、専門家の受診が大切です」
――受診した場合、どんな流れで診ていただけるのですか。
「器質的疾患がある時と同じ症状が出ますので、まず病気がないかを確認しなければなりません。問診し、診察し、血液検査や画像検査で肝臓や胆のう、すい臓にご病気がないかを評価する場合もあります。そして要となる内視鏡検査を行います。様々な検査で器質的疾患を除外しても、病気がないのにディスペプシア症状があるという方を、機能性ディスペプシアと診断します」
――先ほど、機能性ディスペプシアには胃もたれと早期飽満感、心窩部痛、心窩部の焼灼感などの症状があるとうかがいました。それぞれの薬物治療はどうなっていますか。
「機能性ディスペプシアは、色々な要因が絡み合って起こる病気です。症状に合わせた治療をするのが一番だと思います。代表的な薬は、早期飽満感やもたれ感の方に使われる薬、消化管運動機能改善薬(アコチアミド)です。胃の弛緩障害と排出障害を改善します。神経の伝達物質であるアセチルコリンの運動、働きを高める作用があるからです。心窩部痛や焼灼感に関しては、知覚過敏になっているので、酸の分泌を少しでも抑えてあげると、症状がやわらぎますから、酸分泌抑制剤を使用します」
――薬物治療で症状が改善する患者の割合はどれくらいですか。
「色んな因子が絡み合っていますので、薬物治療だけで完全に良くなるというのは、なかなか難しいです。大体、患者様の20%くらいと言われています。1剤だけでなく複数を組み合わせたり、取り替えたりして大体、4週間くらい様子を見るようにしています」
診断名となるまでは、「慢性胃炎」
――機能性ディスペプシアが正式な診断名として認められたのが2013年6月ですね。機能性ディスペプシアの患者さんにはそれまで、どんな診断をしていましたか。
「診断名が付くまでは、慢性胃炎、ストレス性胃炎とか神経性胃炎などと診断されることがありました。慢性胃炎というのは、組織学的に細胞内に炎症がある場合にそう診断するのですが、機能性ディスペプシアは、粘膜に異常がありませんので、少し慢性胃炎と異なります。組織学的胃炎で最も著名なのは、ヘリコバクター・ピロリの感染で起こる萎縮性胃炎ですが、機能性ディスペプシアは器質的疾患がないので、慢性胃炎とは違うと考えなければいけないはずなのですが、疾患名はありませんでした」
――診断名として認められて、どんなメリットがありましたか。
「患者様が『胃が痛いから検査したけど何でもありませんでした』などとおっしゃることもあります。器質的疾患はないけれど胃の不調症状はあるわけですので、きちんと病名がついたこと、この疾病に効果的な治療法があることがわかれば安心され、それだけで不調が良くなる方もいらっしゃいます。少しでも気になる事があれば専門家を受診することをお勧めします。食生活、運動、睡眠など生活習慣を改善し、ストレスや不安を解消しましょう。プロバイオティクスを生活習慣に取り入れることも良いでしょう」