アフガン、ボスニア、チェチェン、イラク... 紛争地を駆け巡った著者が伝える「戦場のリアル」
「アフガニスタンに連れて行って欲しい」
37年前の1980年5月、24歳の著者は単身パキスタンに渡り、反政府ゲリラの事務所に直接交渉した。そして真夏には50度近くになる灼熱の太陽の下、アフガニスタンに入った。年が明けて2月、再びパキスタンを訪れ、今度は1メートルの積雪をかき分け、山越えをしてアフガニスタンに入る。当時はアフガニスタン紛争の真っ最中。ただ「現場をこの目で見たい」。その思いが著者を動かした。アフガニスタンにはその後、30回以上訪れることとなった。
市街戦、爆撃とともに市民の暮らしも
多くの写真を交えて戦場を語ったのが佐藤和孝著『戦場を歩いてきた カラー写真で読み解く戦場のリアル』(ポプラ社、2017年8月発行)だ。ボスニア・ヘルツェゴビナ、チェチェン、コソボ、イラクなど、数々の戦地を取材してきた。本書の最終ページに掲載されている著者の「取材年表」と「世界の紛争年表」は圧巻だ。
昨年から今年にかけては「イスラム国(IS)」によって占領されたイラク・モスルをイラク軍が奪還するまでを取材。今年6月には、日本人ジャーナリストとして初めてISの敗北の象徴となったヌーリ・モスクの取材に成功した。
本書には、著者の戦地取材の原点となったアフガニスタンと、昨年、今年と訪れたウクライナ、イラク・モスルのエピソードが、約60枚のカラー写真とともにまとめられている。
最前線を取材し、レポートする著者だが、その目は戦地での市民たちの暮らしに向けられてもいる。彼らには我々日本人と同じように喜怒哀楽があり、三日も一緒にいれば「兄弟だ」と言ってくれるほど情が厚い。
「一緒に山を越えたムジャヒディン(聖戦士)たちと見た自然の雄大さや、一緒に食べた食事の味、くだらない話をして笑ったみんなの笑顔などは、今でもついこの間のことのように鮮明に思い出せる」「人間の欲望はどこの国でも同じなのだと思うと、そんな彼らを、わたしはとても愛おしく思う」と、著者は語る。
最前線でも取材の合間にチャイをいれて振る舞ってくれたり、著者が取材の許可が出るまでの間、暇にしていると「よう、サトー」と遊びに来て世間話をしていったりする。戦地にいてもみんな「ごく普通」の人たち。思わずくすっと笑ってしまうエピソードも多々掲載されている。
あちこちで爆撃があり、死臭漂うモスルでの危険な取材に対して「これが市街戦というもの」と淡々と語る著者が避難民キャンプで撮影した子どもの目には、言葉はいらないメッセージが込められている。そんな戦地の厳しさを伝えつつも「最前線だけが戦場ではない」。まさに著者が言う通りの一冊だ。