浜田省吾、オリコン記録更新
60代の心ある歌と演奏と

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   浜田省吾が彼のツアーメンバーとともに制作した二枚のミニアルバム「The Moonlight Cats Radio Show VOL.1&2」が9月18日付のオリコンアルバムチャートで1位と2位を独占した。

   彼は、2015年のオリジナルアルバム「Journey of a Songwriter」で二週続けて一位を獲得。1952年12月生まれ、アルバム発売時が62才、60代の二週連続一位は初めてで、史上最年長連続一位記録を樹立。今回の一位二位独占は、それに続く記録となった。

The Moonlight Cats Radio Show VOL.1
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60、70年代の洋楽カバーアルバム

   新作アルバムのアーティスト表記は「SHOGO HAMADA&The J.S.Inspirations」。去年から今年にかけて行われたツアー「ON THE ROAD2016 Journey of a Songwriter~since1976」でも同じステージに立っているミュージシャン達のバンド。その時はついていなかったバンド名がついた。取り上げられている曲は、彼が青春時代に影響を受けた60年代から70年代初頭の洋楽ばかりのカバーアルバムである。彼は、9月に出たファンクラブの会報誌「ROAD&SKY」Vol.204でのインタビューでこう言っている。

「ここ何回かツアーの開演前に、自分が子供の頃に大好きでよく聴いていた洋楽を流している。それを自分でもMP3プレイヤーに入れて、ふだんもランダムに聴いているんです」
「以前、自分で洋楽をカバーして、開演前に流そうかっていうアイデアがあったんです」
「でも、実際にやるとなるとかなり大変なので、話は立ち消えになっていた。そして、時は流れ、今のバンドでツアーをするようになったのが2015年。バンドのバイブレーションがすごくよくて、そのときのツアーがとっても楽しかったんだよね」
「それで、そのツアーの途中で、本番前にメンバーに集まってもらって『このバンドでアルバムを作ろうと思うんだけど、話に乗る?』って聞いたら『楽しそう!やろう、やろう!』って反応でね、そこから始まったんです」

   洋楽邦楽を問わず、カバーアルバムには、そのアーティストや製作スタッフの音楽的良心が反映される。中には、曲の知名度に頼った商業的な目論見が先行した「お手軽」なものもあったりする。少なくとも今回の「The Moonlight Cats Radio Show」はそういうアルバムではない。

   彼が「なかなか大変で」という理由はいくつもある。例えば、曲の許可がある。歌いたいからと言って誰にでも歌わせてくれるわけではない。契約面での縛りの多い洋楽は特にそうだ。どんな曲が可能なのか。どういう条件がつくのか。そこから始めなければいけない。

   そして何よりも、そのクオリティーがある。

   オリジナルとの対比。原曲が古ければ古いほど、機材やレコーディングの方法も激変しており、もはや同じような音を出すことすら至難の業だったりする。更に、なぜその曲を選んだか、その曲をどう解釈したのか。その曲に対しての愛情をどこまで注げたのか。自分たちのオリジナリティをどうやって出すか。その一つ一つのハードルを越えることがどのくらい大変なことか。

   ファンクラブ会報誌「ROAD&SKY」には「21世紀を感じたいと言いつつレコーディングで盛り上がるバンドに向かって「極端にやりすぎると。しばらくしてから聴いて「やっぱりオリジナルのほうがよかった」って思うんだよね」と浜田省吾が釘をさすシーンもありました」という編集部の記述もあった。

何と耳障りのいい時の流れがそのまま音に

   バンドのメンバーは、次の通りだ。

   浜田省吾(V)、町支寛二(G・V)、長田進(G・V)、美久月千晴(B)、小田原豊(D)、河内肇(P)、福田裕彦(Key)、古村敏比古(Sax)清岡太郎(Tb)佐々木史郎(Tp)、中嶋ユキノ(V)竹内ひろみ(V)。このメンバーが関わるアーティストの名前をあげるだけでJ-POPの歴史が語れてしまうという強者ばかり。ちなみに美久月千晴と長田進は井上陽水のツアーメンバーであり、小田原豊は今年の夏に28年ぶりのツアーを行ったレベッカの一員。レコーディングのスケジュールの大変さが心配になる売れっ子ばかりである。

   そして、このメンバーが、それぞれの曲のアレンジを担当している。ミュージシャンとして思い入れのある曲、アレンジし甲斐のある曲。その全体をプロデュースしているのが浜田省吾という作り方をしている。管楽器のミュージシャンが手掛けた曲はオリジナルよりもホーンセクションが味わい深かったり、ピアノがフィーチャーされていたり、コーラスが前面に出ていたり、メンバーが歌っている曲もある。

   プロデューサーの浜田省吾は、やはり前述の会報誌「ROAD&SKY」でのインタビューでバンドのメンバーと話したことについてこう言っている。

「一番の大きなポイントは、ボーカルアルバムを作るつもりはないんだということ。これだけ素晴らしいミュージシャンがそろっているので、その曲をテーマにして楽器演奏の部分を大切にしたいということ。歌が50%、楽器が50%、そういうものにしたい」

   何と耳障りのいいアルバムなんだろう。

   これが最初に聞いた時の印象だった。

   音が柔らかい。

   時の流れがそのまま音になったかのように空気がゆったりとしている。メンバーの呼吸が一体になっていることが伝わってくる。

   デジタルな音に慣れた耳が癒されるようなロックアルバム。スティービー・ワンダー、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、キャロル・キング、マービン・ゲイ、テンプテーションズ、シュープリームス、ヴァン・モリソン、ビートルズ...。それらのアーティストの名曲たち。特に新しいということをしているわけでなく、それでいて古さも感じない。メンバーの半数が還暦を超えるキャリアあっての演奏。まさに年期だ。

   アルバムジャケットは猫だ。

   なぜ猫なのだろう。

   「ロックンロール」という言葉の生みの親と言われる50年代のアメリカのラジオDJ、アラン・フリードのニックネームが「ムーンドッグ」だったという謎かけのような洒落っ気も感じさせた。アルバムの冒頭には浜田省吾のDJ風な紹介がついている。

   もうひとつ、見逃せないことがあった。

   それは「What's going on」のミュージック映像である。

   71年、マービン・ゲイが発表したソウルミュージックのスタンダードには、ベトナム戦争に対しての彼の気持ちが託されている。浜田省吾は、その曲の映像に国連の難民支援機関、UNHCR協会提供の写真を使っている。

   時を超え、今、世界で起きていること。

   そして音楽が伝えるもの。

   心ある歌と演奏――。

   カバーの意味というのはこういうことなのではないだろうか。

(タケ)

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