新たな世界システムの中で日本は何をすべきか 冷戦後の「世界情勢」を知る指南書
■『新しい中世 相互依存の世界システム』(田中明彦著、講談社学術文庫)
■『ケインズとその時代を詠む』(大瀧雅之・加藤晋編、東京大学出版会)
週刊エコノミスト(毎日新聞社)を読む楽しみの1つは、その読書欄にある。複数の有識者が順繰りに執筆する「読書日記」というコラムには、以前、気鋭のイスラム学者池内恵氏(東京大学准教授)も書いていた。
池内氏は、過去に読売新聞などの書評委員を務めたことがあり、毎日書評賞を受賞した「書物の運命」(文藝春秋 2006年)は、残念ながら絶版であるが、読書を好きなものの座右にあるべき1冊である。
池内氏の薦める本は歯ごたえがあるが、読んで絶対に損にはならない。2015年5月19日号の週刊エコノミストの「読書日記」で紹介された2冊は、「国際社会論 アナーキカルソサエティ」(へドリー・ブル著 岩波書店 2000年)と、「新しい中世 相互依存深まる世界システム」(田中明彦著 日経ビジネス人文庫 2003年)であった。
国際政治学を誕生させた、E.H.カーの流れをくむ「イギリス学派」のブルの本は、この「読書日記」の後、2016年5月に、岩波書店などが取り組む10出版社共同復刊事業の「書物復権」で第九刷が出た。そして、なんと、「新しい中世」が講談社学術文庫の8月の新刊「新しい中世 相互依存の世界システム」として再び世に出された。
世界を3つに分類したら...
北朝鮮の核問題、中国の軍事進出の脅威など、アジア・太平洋の情勢は、なかなか険しい。そのような中、「新しい中世」という視点、すなわち、国境が薄れ、法の支配など自由民主主義が定着し、複雑な相互依存が成り立つ「新中世圏」、近代に成立した国民国家(主権国家)が重要な主体として成立する「近代圏」、秩序が崩壊し、近代が達成したものまで失われている「混沌圏」の3つに、世界の国々を分類し、我々にも、この情勢を分析する手立てを示してくれる。「中世」というのは、「ヨーロッパ中世」との対比からきているが、非国家主体の重要性の増大、イデオロギー対立の終焉で類似し、グローバリゼーションでは違いがあるという。
このような分析枠組みで、アジア・太平洋地域で、日本のとるべきは、「新中世圏」では、日米安全保障条約の実効性の確保、ヨーロッパ・オーストラリアの重視、「近代圏」では、勢力均衡(安保条約の実効性確保を含む)、多国間協議、ロシアとの関係改善、「混沌圏」は、日本の対応が最も遅れている分野で、国際平和維持活動への参加、経済援助・人的協力の拡大、となる。
それぞれの圏域(スフィア)に応じた対処は、とかくわかりやすさを性急に求め勝ちな、我々の頭を冷やしてくれる。
カーとケインズの理論的共通点
また、週刊エコノミスト2017年9月5日号の「話題の本」では、20世紀最大の経済学者、ケインズに関わる古典などを紹介した「ケインズとその時代を詠む」(大瀧雅之・加藤晋編 東京大学出版会 2017年7月)が取り上げられている。
「戦後の世界秩序が揺らいでいる。ケインズが生きた二つの世界大戦の間も同様だった。1930年代の世界的危機に際し、その回避に心血を注いだ英知、良心を顧みるために選ばれた名著」を紹介したのが本書だ。
その中には、上記、E.H.カーの「危機の二十年」をはじめ、ケインズの「平和の経済的帰結」、「条約の改正」、「雇用・利子および貨幣の一般理論」などがある。
カーとケインズの理論的共通点は、リアリズムに軸足を置き、現実的に達成できるものを前提として理想を追求する姿勢にある、という。ケインズが、「一般理論」でみせた自由放任主義への批判的姿勢と人間の合理的判断への期待にカーが共鳴し、ユートピアニズムへの批判的分析とリアリズムの導入を通じて、国際政治学が深化したのだ。
経済官庁 AK