万里の長城マラソンに視覚障がいランナー 日本から2人出場し完走

   2017年5月、小さな鈴の音(以下鈴の音)のメンバーが向かったのは万里の長城である。

   「万里の長城マラソン」は今年16回を数えるマラソン大会で、世界から約200人が参加した。鈴の音からは、ゴビ、サハラの両砂漠を完走した村木さんと中国人の視覚障がい者がエントリー。伴走者は中国と韓国から3人。さらにイギリスとアメリカからもそれぞれ1人が、伴走の練習をしたいと参加した。

今年5月上旬、(一社)小さな鈴の音は、第16回万里の長城マラソンに参加した。(写真・Small Bell Sound)
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いくら足を上げても次の段差に届かない

   万里の長城マラソン史上で、視覚障がいのランナーが参加するのは初めての出来事だった。参加者たちの前で紹介され、拍手を浴びたという。「RUNNING STREET 365」というWebサイトには、万里の長城マラソンのレポートが掲載されている。鈴の音メンバーの奮闘ぶりにも触れており、その姿が他のランナーに刺激を与えた様子が記されている。

   気温28~30C、乾燥の中、ペットボトルの水を飲み干してしまうほどだったという。しかも、村木さんによると、万里の長城コースは、階段の段差も、階段面の大きさも、ひとつとして同じものがなく、かなり歩きにくかったという。

「段差に関しては、いくら足を上げても、次のステップに足が届かない所もあり苦労しました。スロープも手すりがなく、難しいコースでした。しかもアップダウンが激しいので、筋肉痛がひどかった。ゴビ砂漠を走っても、あんなに痛むことがなかったのに」

   でも、楽しいこともたくさんあった。

   イギリスとアメリカから参加した伴走者がいた。村木さんは彼らとも一緒に走った。最初はさすがにぎこちなかった。それでも進むほどにコツをつかんでいくのがわかり、2人には「ベスト・パートナー!」と声をかけた。来年は、イギリスとアメリカの視覚障がい者が、マラソンに参加する可能性があるという。

   「いろいろな国の視覚障がいの人がレースに参加するのは嬉しい。そのお手伝いができるのは、なにより素晴らしいことです」と金さんが言う。

   タイムは、鈴の音のメンバーは同時で、8時間30分34秒。

   視覚障がい者の中には、走ることはむろん、動きづらい人も多く、どうしても家にいる時間が長くなるという。鈴の音プロジェクトが、そういう人たちへの刺激にもなればと考えている。

ネックは費用で100万円ほど

   ただ、ネックは参加費用だ。5大陸砂漠マラソンに参加するには、1人約100万円ほどかかる。協賛企業・団体を募っているが、まだ知名度が低いために、反応がいまひとつだ。万里の長城マラソン、そしてこの8月に挑戦する富士登山には、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団が支援し、活動の貴重な財源になった。

   金さんは、小さな鈴の音プロジェクトをこれまで実施して、あらためて思うことがある。

「スポーツは競争です。でもわれわれは協力を大事にしています。われわれのプロジェクトで大切にしているのは、いかに相手のために自分が行動できるかということです。伴走者は視覚障がい者の代わりに危ない場所を歩くこともたびたびありますから、レースも終盤戦にさしかかる頃には、伴走者の靴のほうが視覚障がい者のそれよりもボロボロになります。そのような姿勢で取り組んでいると、自ずと国の壁や言葉の壁を簡単に越えるんですね。言葉は通じなくても、心のつながりができるのです」

   オリンピックとパラリンピックはある。しかし両者をつなぐスポーツがない。それを2020年、東京から始めるのもいい。

(文・ノンフィクションライター 西所正道)

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