chay、ハスキーでありながらカラフル
80年代の華やかさと今風のスピード感
タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
音楽とファッションとの密接な関係は今に始まったわけではない。こういう恰好をしている人はこういう音楽をやっているというイメージも出来上がっている。
例えば、ロンドンブーツに銀ラメのシャツだったらブリティッシュハードロックで、鋲のついた黒い革ジャンならパンクロック、花柄のシャツにデニムのジーンズだったら、70年代アメリカのフォーク&ロックという具合だ。それが一つの分かりやすさにもつながっている。
でも、そうじゃないといけない、という根拠もない。
見た目と一番違う格好にしようと
6月14日に二枚目のフルアルバム「chay TEA」を発売したchayは、筆者が担当しているFM NACK5の「J-POP TALKIN'」でのインタビューでこう言った。
「見た目と一番違う恰好にしようと思ったんです。ワンピースにヒール履いてギター。不自然、似合わないとか言われましたけど、何か決まりがあるわけじゃなし、それが自分のスタイルになればと思ってます」
chayは90年10月生まれ。2012年にデビュー、雑誌「CanCam」の専属モデルだったこともある美人シンガーソングライターである。
ステージや映像でギターを持って歌っている。アコースティックギターもあればエレキの時もある。でも、ファッションは、ハイヒールにワンピース。見るからに育ちの良さそうなセレブ風だ。誰もが思い浮かべる女性シンガーソングライターというイメージとは少し違う。何でそういうスタイルにしようと思ったのか。彼女は「オーディションに落ちまくっていたから」と言った。
「ずっと落ちまくってましたからね。いつも最終選考でダメになるんです。思っていた声と違う、見かけの割に声が低いって言われるんです。大学ではみんな就活中だったんで焦ってました」
映画「ラ・ラ・ランド」は、ハリウッドの女優オーディションに落ち続ける女優の卵が主人公だった。あの映画を見た時、オーディションに落ちる側の心境というのを知りたくなった。
「毎回泣いてました。いちいち口惜しくて。絶対に見ておけよ、デビューした後に、私を落とした人が見て、落としたことを後悔させてやるって。ギターを持つようになったのもそこからです。あんまり言われるんで、それを強みにしようと思ったんですね」
アルバム「chay TEA」では、全14曲の中で作詞を9曲、作曲を4曲手掛けている。その中には松任谷由実の「12月の雨」と、吉田拓郎の「結婚しようよ」のカバーもある。松任谷由実のコンサートには子供の頃から両親に連れられて足を運んでいたという。90年生まれ。バブル時代の華やかな東京の空気を吸い込んで育った世代。子供の頃から憧れていた歌手への夢が砕かれたのが、高校を出てから経験した一連のオーディション不合格だったことになる。
「不自然」「似合わない」「らしくない」――。
そんな声を武器に変えることが出来るかどうか。
26歳の私が詰まっている
ギターを始めたのは19歳。
路上に出るようになったのもそれからだ。
渋谷、川崎、柏、下北沢、そんな場所の中に福岡・天神まで登場した。
「天神は路上ライブをやる人の数が多いということでそこでも通用するのかと。雨が降っていて、一人の人の足を止めるのがこんなに大変かと思わされました。20人にいれば万々歳。その頃に立ち止まってくれた人の顔は覚えてます。根性みたいなものは養われたと思います(笑)」
「こういう人はあまりいないでしょうし、この人を見てると元気になれる、楽しめると思ってもらえように自信を持ってやってゆきたい。笑われてもいいんです」。
アルバムの先行シングル「運命のアイラブユー」は、去年結婚した実姉を歌ったものだ。本人に心境を聞いて作詞をしたと言った。アルバム全体に、20代女性の幸福感や恋愛観が流れている。
サウンドは80年代の華やさを残しつつ、今風なスピード感も加わっている。ハスキーでありながらカラフル。オーディションで「外見と違う」と言われた彼女の声をより生かしているのは、作曲も手掛ける、Superflyでおなじみの多保孝一だ。
「ウェディングアルバムと言う意識はしてなかったんです。恋愛観は年を重ねるごとに変わりますし。26歳の私が詰まってるんじゃないでしょうか」
女性アーティストの中には、結婚して人生が変わってしまう、音楽活動から身を引いてしまう例も少なくない。そういう選択はあるのだろうか。
彼女はきっぱりと「ありません」と笑った。
8月は全国6都市でのツアーが待っている。
(タケ)