保守派の希望の星ながら冷戦を終結に導いたレーガン 矛盾と謎に満ちた生涯を描く

■レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか(村田晃嗣、中公新書)
■テキストブック政府経営論(ヤン=エリック・レーン著 稲継裕昭訳 勁草書房)


   公共政策の企画・立案を行うというのが、中央省庁に務める国家公務員の仕事だが、そのような仕事に携わる中で、公共に係わる人物の「評伝」(批評をまじえながら書かれたある人物の伝記)に惹かれる。優れた評伝は、間違いなく読書の愉しみの1つの対象だ。

   なかなかじっくり読めないのが悩みだ。その点、気軽にカバンに入れておいて、ときに読める中公新書の信頼ある充実した「評伝」のラインアップはとてもうれしい。「福沢諭吉」(飯田鼎著 中公新書)、「石橋湛山」(増田弘著 同新書)などどれも味わい深い。

   海外の人物についても「チャーチル」(河合秀和著)など読み応えのあるものが並ぶが、いまのトランプ現象を考える上でも参考になるのは、保守派でありつつ、ソ連との和解、冷戦終結に大きな貢献をしたアメリカの第40代大統領(1981年~1989年)レーガンの生涯をコンパクトに描いた「レーガン」(村田晃嗣著 同新書 2011年)だ。本書が発刊された2011年は、レーガンの生誕100年であった。なお、評者は、中公新書には、レーガンとともに20世紀後半を代表する政治家、英国首相「サッチャー」の評伝を期待している。

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政府組織のマネジメントや経営の入門書

   村田氏のよどみない論述によれば、レーガンは、アメリカ人を包含する「大きな物語」を語り、信念とともに柔軟性を兼ね備えた傑出したリーダーであった。

   そのレーガンが就任演説で述べたのが、「現在の危機において、政府なるものは問題の解決にならない。政府こそが問題なのである。」という言葉である。就任演説では、「小さな政府」・「強いアメリカ」という明確な目標が語られ、それがアメリカ国民に前向きな明るさをもたらした。

   レーガンやサッチャーが主張する、この「小さな政府」に端を発した、「ニューパブリックマネジメント」(新公共経営)が20世紀末に登場し、行政を扱う学問分野である「行政学」にも大きなインパクトを与えた。「行政学」は、広辞苑によれば、現行行政制度の利害・得失を考察し、一定の理想に照らし、これに適合する改善を研究する学問とされる。経営学の知識が民間企業の管理職にとって必須であるのと同様、国家公務員にとって、いまや必須の知識となっている。

   先般、「行政の『進化』をとらえる新たな教科書」が翻訳・刊行された。それが、「テキストブック 政府経営論」(ヤン=エリック・レーン著 稲継裕昭訳 勁草書房 2017年4月 原著:State Management :An Enquiry into Models of Public Administration and Management 2009)である。

   訳者による「はじめに」によれば、ここで「政府経営論」とは、「公共部門におけるサービス提供組織に関する理論」である。日本においては、地方分権の文脈で、公共経営の研究は進められてきたが、公共政策をつくる政府組織のマネジメントや経営に焦点をあてた入門書はなかったという。

   伝統的な官僚モデル、その批判、限定合理性モデル・合理性モデルなどの政策モデル、政策「実施」、独立エージェンシー・市場化などニューパブリックマネジメントの諸議論、ネットワーク論など、行政マンであればどこかでは耳にしたことがあるものをきちんと体系化した議論として提供している。

   参考文献には邦訳がないものも多く、この「政府経営」には多くの発展の余地があると思う。

経済官庁 AK

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