80才、加山雄三の新世界
ヒップホップあり、アイドルあり
加山雄三が80才になった。1937年4月11日生まれである。
とは言っても世間一般、誰もが想像する80才とは天と地ほどの違いがある。外見はもちろん、行動や発想。どれを取っても比較の対象が見つからない。
筆者がナビゲーターをつとめるFM COCOLOの「J-POP LEGEND FORUM」は、毎月一人のアーテイストや一つのテーマを1か月間特集している。4月の月間アーテイストとなった加山雄三は、インタビューで「若さの秘訣」というあまりに素朴な質問に苦笑いしながら「睡眠。そして、食事の間に4時間は空けることくらいかな」と言った。
もちろん、それだけで彼の若々しさが保たれているわけではない。
ももクロとコラボも
2014年、彼は、The King All Starsという新しいバンドを結成した。77才、喜寿の時である。メンバーは彼を入れて13名。いずれもロックファンなら知らない人はいないと思われるバンドの中心人物ばかりだ。しかも最年少メンバーとは48才も年齢差がある。音楽のジャンルもロックやジャズ、ラッパーもいる。まさに今のロックシーンを切り取ったような顔ぶれ。バンドの名前は、彼が敬愛するエルビス・プレスリーが「ロックの王様」だったこととそれぞれのメンバーが一国一城の主であり、トランプで言えば"King"のような存在ばかりだから、ということからついた。
その結成の動機について、「フェスに出てみたかったんですよ」と彼は言った。
フェス。ロックフェスである。若者が集まり、野外でロックを楽しむ。そこに出たかった、というのである。集まったメンバーは、どれもフェスで人気のバンドから選ばれた。2014年にインデイーズからアルバム「ROCK FES」を発売、翌年、メジャーデビューアルバム「I SIMPLE SAY」を発売した。78才のデビューアルバムである。
それだけではない。77才から78才にかけて日本武道館を皮切りに全都道府県ツアーを全53本行った。どれも45曲、2時間半。しかも彼は「やらないと不安だから」と全曲のリハーサルをしてから臨んでいた。声量や声の艶には誰もが驚かされたはずだ。
そして、今年、3月には何と、ヒップホップ系のミュージシャンが主体の「加山雄三の新世界」を発売した。彼の名曲のオリジナル音源を若いアーテイストが解釈して作り直す。その中には人気アイドルももいろクローバーZや今売り出し中の水曜日のカンパネラなどの90年代生まれもいる。病と闘うラッパーの大御所、ECDが病室を抜け出してレコーデイングした曲もある。ヒップホップやジャズ、どんなに大胆なアレンジを施しても自然体のメロデイーは瑞々しい。それはまさに「新世界」だった。
「年をとったら若い人とつきあう」
彼の音楽を初めて耳にしたのは1965年の「恋は赤いバラ」だ。"I LOVE YOU. YES、I DO"と流れるような心地良い英語のフレーズは日本の歌謡曲とは明らかに一線を引いていた。作曲・弾厚作、作詞・岩谷時子、歌・加山雄三。弾厚作というのは、団伊玖磨と山田耕筰をミックスした彼のペンネームだ。1966年の「君といつまでも」のあの「幸せだなあ」という台詞を誰もが一度は耳にしているはずだ。エレキギターを弾いて自作の曲を歌う。シンガーソングライターの走りだった。
しかも戦後を代表する俳優を両親に持つという血統。エレキギターだけでなくピアノも弾く。サーフィンやヨット、スキーやアメリカンフットボールなど日本ではまだ一般的ではなかったスポーツも万能。それでいて、ドカベンというニックネームの飾らない人柄。映画「若大将」シリーズそのもののような存在は当時の若者達の憧れ以外の何者でもなかった。
4月12日、80才記念のアルバムがもう一枚出た。「Respect YUZO KAYAMA」には忌野清志郎、福山雅治、井上陽水、竹中直人、高橋真梨子、森山良子、憂歌団など多彩な顔ぶれは、いかに彼の存在が大きかったかの証明だろう。
2月にThe King All Starsのライブを東京・恵比寿のライブハウス、リキッドルームで見た。客席はオールスタンデイング、1000名ほどの観客の中には初めてライブハウスに足を運んだような年配の姿も見えた。世代を超えた観客から飛ぶ「若大将!」コールの中でギターを抱えて熱唱する姿はまぶしいほどのロックスターだった。
音楽に年齢はない。彼はインタビューの中でこう言った。
「今の若い人の音楽は分からないという人は、分かろうとしてないだけですよ。いい物は良いんです。年を取ったら若い人と付き合うことだね。年齢は関係ありません」
若さの秘訣は、睡眠や食事だけではない。それは好奇心だろう。14才で船を設計した彼は量子力学や天文学、自然エネルギーにも精通している。画家としても玄人はだし。ヨットのある伊豆には「加山雄三ミュージアム」も持っている。山下達郎は彼を「ダ・ヴィンチ」に例えていた。
知りたい、やってみたい、楽しみたい。好奇心のおもむくままに生きること。80才の若大将は、僕らが何を失いかけているかを改めて教えてくれるのではないだろうか。(タケ)